やってくれるぜ、ランチパックこの野郎

boredoms2011-02-24

またしても、山崎製パンさんのランチパックが美味しいというお知らせです。
前回は「きなこもち」の味が美味しいというお知らせを書きましたけど、今回のお味は「焼肉(辛口マヨネーズ風味)」、新商品らしいのですがすごく美味しい。
ザ・焼肉みたいな味です、すごくデリシャス。
同じ新商品で「焼きうどん」も出てたので明日買ってみます。
豊郷小学校に行ってきました記念第二弾の画像は、田井中さんの飛び出し小僧です。
おかしくねーし!



獣王伝 雷血
第四話『青龍 其の三』

 五百旗頭の話しによれば、この三匹の干支者と最初に出逢ったのは学校にほど近い空き地だったそうだ。
 その空き地というのは、朱雀が日課にしている『草をついばむ』という謎めいた行為が行われる空き地でもあり、そこで三匹の干支者と五百旗頭が会話をしているのを発見した朱雀は、『五百旗頭が四聖を裏切った』という風に勘違いをしたのだと思われる。
 結局のところ、五百旗頭が四聖を裏切ったという情報は朱雀の勘違いだったというわけだ。
「空き地でこの子らと出逢ってな、なんや誰かに追われてるって話しやったから、ほな屋上来たらええやん? ってな事で連れて来たんよ、丁度部員も探してる最中やったし、一石二鳥やね」
 この屋上にいる猪、馬、牛の三匹は、総勢十二匹からなる干支者の中でもずば抜けて、それはもうどうしようもなく落ちこぼれなのだという。
 亥の刻である鯨波は戦う意志など毛頭ない弱腰な優男で、午の刻のひのえは何をするのもめんどくさいという不良な美少女だ、丑の刻の吉野に関しては気風が良いだけの単なる雄牛でしかない。
 つまりは人畜無害ということらしいのだが、本当に大丈夫なのかは不安が残る。ただ、ねずみ男爵の前例を考えれば、干支者という存在はみんながみんな悪い奴ではないのかも知れないと思えてきた。
「最初はあっしらも本当について行っても良いものかどうか悩んだでさあ、もしかしたらまたサーカス団にでも売り飛ばされるんじゃねえかとも考えやしたけど、姉御は決してそんな人間じゃありやせんでした、それはそれは心根の優しいお人でさあ」
 誰かに追われてた。というのは、今の吉野の会話から察するには恐らく、どこぞのサーカス団にでも追われていたのだろう。という事は、こいつ等はどこぞのサーカス団から逃げてきたのということになる。そしてそれ以前に、こいつ等はどこぞのサーカス団に所属していたという事になるわけだ。
 伝説の干支者とはいえ、人間と同じ様に、もしくはそれ以上に様々な苦労があるのだろう。そう考えると、少しだけ泣けた。
「あたいは暇だから来ただけだ」
 ひのえは少しすねたような顔で、唾でも吐き捨てる様にぶっきら棒にそう言った。
「僕は二人が行くというのでついて来たんです、でも本当に姉御さんには感謝していますよ。ここに来なければ、今頃は火の輪をくぐる練習をさせられているはずですから」
 今の鯨波が喋った内容により、こいつ等がサーカス団に所属していた事はより確実なものとなった。
 なんとも、世知辛い世の中である。


 三匹の干支者と五百旗頭の出会いの話しを聞き終えて、ようやく俺が紅茶を飲み干す頃、急にひのえが五百旗頭の着るメイド服の胸倉を掴み上げた。急に発生したバイオレンスにビックリした俺は、口に含んでいた紅茶を全て吹き出してしまったぐらいだ。ぼんやりと椅子に座って紅茶を飲んでいた五百旗頭の身体が、今はひのえによって宙ぶらりんの状態になっている。そんな五百旗頭に向かってひのえがぼそりと口を開いた。
「……飯、喰いに行こうぜ」
「食事の誘い方が刺激的すぎるよ! は、早く五百旗頭を降ろしてやれよ」
「ひのえちゃん、今日何食べる?」
 五百旗頭はけろりとした表情で言った。
「普通だなおい!」
「大丈夫でさあ部長の兄ぃ、ひのえは腹が減ると誰かの胸倉を掴み上げる癖がありやして、別に怒っているわけじゃありやせんから心配ご無用でさあ」
 そうは言われても大いに心配である、とはいえ五百旗頭の反応からしてもまるで日常茶飯事かのような対応なので、あまり心配をしなくてもよさそうだ。
 今日は土曜日で、すでに授業は昼までで終わっている。吾妻家では吉本新喜劇を見ながらお昼ごはんをみんなで食べている頃だろうと思う。
「そろそろここら辺で帰ろうかな、俺もお腹が空いてきたし」
 そう言って俺は、自分の鞄を持って椅子から立ち上がった。その時、屋上入り口の扉をノックする音がした。
「お? もしかして……来たんとちゃうかな最初の相談者が! ひ、ひとまず降ろしてひのえちゃん、こんな状況見たら相談者の人びっくりするで」
「ちっ……」
「後でアップルパイおごったげるやん」
 それを聞くなりひのえは素直に五百旗頭を降ろした、どうやらひのえはアップルパイが好物らしい。
 解放された五百旗頭は素早く椅子へと腰を降ろすと、赤毛のボブカットヘアーを軽く整え「どうぞぉお入り〜」と相談者を招き入れた。
 五百旗頭の呼びかけに「はい」と言う返事が扉の向こうから聞こえた、声の印象から想像して歳の若い女性のものだ。
「部活発足初日に相談者が来るなんて凄いじゃないか五百旗頭」
「それがやね吾妻君。この部活始めてもう三週間は経ってるのに今まで相談者はゼロなんよ、それがやっと初めての相談者かもしれん人が来たんよ! という事で悪いけど吾妻部長君も帰らんとここにおってな、ドッキドッキやねぇ」
 茶色いペンキが塗られた鉄製の扉がゆっくりと開かれる、そこに立っていたのは二本足で立つ人間サイズのマルチーズであった。
 俺の記憶が確かなら、あの人間サイズのマルチーズは犬束 千晶(いぬつか ちあき)という名前で、昨日俺に告白をしてきた干支者だ。今日も昨日と同じ様に、うちの高校の制服を着込んでいる。
「ギャーーッ!」
 楳図かずお先生の漫画でしか拝見しないような叫び声を上げたのは、情けないことに男である鯨波と吉野であった。
 鯨波はもうこれ以上ないぐらい綺麗な土下座をし、コンクリートの地面におでこをこすり合わせて「お帰り下さい」と呪文を唱えるように連呼し始めた。
 そして一方の吉野は、縮んでいた。
 恐怖で縮こまる、という言葉の意味合いでは決してない。優に三メートルはある吉野の全長が、今はハムスター程の大きさに縮んでいて、がたがたと震え上がっているのだ。
「見てくれ鯨波! 吉野がものすごく小さくなってる!」
 俺は慌てて吉野の状況を土下座現在進行形の鯨波に伝えた。
 すると土下座の状態のまま、鯨波は少しだけ顔を上げて俺を見た。
「大丈夫です部長さん、吉野さんは自分の身体を小さくする事ができるんです。吉野さんが持つ、唯一の技です」
「唯一の技が、これ……だと……? そうか、吉野がタンクトップを着れた理由がわかったよ」
「今はそんな事はどうでもいいですから、早く部長さんも土下座して下さい!」
 そんな情けない男達とは対照的に、女性陣二人は実に肝が据わっていると言える。
 五百旗頭は椅子に座ったままで一切動かずに犬束の様子を伺っている様に見えるし、ひのえは腕を組んで仁王立ちの姿で犬束に睨みをきかせているようだ。
「なぁ鯨波、男のお前らがそんなに臆病でどうするんだよ。女子の二人を見てみろ、立派なもんだぞ」
 俺は鯨波にできるだけ優しいトーンで言ってやった。
「それは違う、違うよ部長さん」
「何が?」
「あの二人、失神していますよ」
 そんな馬鹿な、そう思いながら二人の顔を再確認してみる。よく見ると二人とも小刻みに震えていて、尚且つ二人とも白目を剥いている。
 彼女らは動かなかったのではない、動けなかったのだ。
「ごめんな、お前の言う通りだったよ……」
「今はそんな事はどうでもいいです、早く部長さんも土下座して下さい!」
 さっきとまったく同じ言葉と字数で俺を土下座へと誘導した鯨波は、またおでこを地面にこすり付けて「お帰り下さい」と懇願する体勢へと戻った。
 それにしても不思議だ。
 犬束はこの屋上にいる三匹と同じ干支者であり、仲間のはずの犬束をなぜこんなにも恐怖する必要があるのだろうか。
鯨波も吉野も顔を上げてよく見てみろよ、あの馬鹿でかいマルチーズはお前らと同じ仲間だろう? あいつとは昨日も逢ったよ」
 おでこをこすり付けていた鯨波の動作がぴたりと止み、鯨波がまた少しだけ顔を上げて俺を見ている。
「どうやら部長さん、あなたは何かものすごい勘違いをしてますね」
「だってあのマルチーズ、いや犬束千晶は、戌の刻だろうに?」
「ぶ、部長の兄ぃ!」
 吉野が小さくなってから初めて口を開いた、その声は酷く上ずっている。
「干支者に、そんな名前の奴はいませんぜ」
「……本当か、鯨波
「吉野さんは嘘なんてつきませんよ。僕もあんな人は見た事もなければ聞いた事もない、だからわざわざこうして土下座をして帰ってもらおうとしているんです」
 二人とも至極真剣な表情である、これはどうやら嘘ではないようだ。だとすれば、犬束は一体どういう存在なのだろうか。
 疑問を浮かべながら、屋上の入り口に突っ立ている犬束へと視線を移す。
「犬束、あんたは」
「逃げて、吾妻先輩」
 俺の言葉を遮るように犬束は早口でそう言った、その直後、犬束の黒い瞳から一滴の涙がこぼれたのを確認した。
「逃げ……て……」
 犬束の様子がおかしい。
 自身の頭を両手で鷲掴みにし、何かを振り払うように右左へと頭を激しく振り始めた。ずいぶんと苦しい様子で、歯軋りが少し離れたこちらにも聞こえてくるほどだ。
「犬束!?」
 堪らず駆け寄ろうとした俺に、犬束は「来ないで」と静かに言った。
「早くここから逃げて、私、あなたを殺し、たくな……っ!?」
 次の瞬間、跳ねる様に身体をびくんと激しく痙攣させた犬束は、糸の切れた操り人形のようにぐったりとその場にへたり込んだ。
 これはいよいよ、ただ事ではない。
 俺は再度、犬束の元へと駆け寄ろうと一歩を踏み出す。
 それとほぼ同時、へたり込んでいたはずの犬束が俺の目の前にいる。
 さっきまでの黒い瞳の色は消え失せ、今は黄金色の猛烈な光彩を放っている。その瞳は明確な殺意を孕んで、俺を捉えていた。
「え?」 
 理解ができなかった。
 ほんの一瞬の間に距離を詰められた事も、今から放たれようとしている右ストレートの存在も。

コーラうまぁ

boredoms2011-01-23

もう最近コーラしか飲んでいないような気がする、おいしすぎるコーラ。
クソどうでもいいこと書きますけど、僕はコカコーラ派です。
あと豊郷小学校は素敵すぎる!
豊郷小学校行ってきた記念の第一弾の画像は、唯さんの飛び出し小僧です。
ぉかわり。



獣王伝 雷血
第三話『青龍 其の二』


 青龍継承者である五百旗頭 蘭々が四聖を裏切った。
 先日、そんな不吉な情報をくれた朱雀であったが、『お気に入りの空き地に生えている雑草を食べる』という重要な日課があるとかでそそくさと飛び立ってしまったので詳細はわからないでいた。
 もやもやしながら日曜日を過ごして、月曜日の朝が来た。
 その情報が真実なのか、それは学校に登校しているであろう五百旗頭本人に聞くのが一番手っ取り早いと俺は考えた。
 ルイチの「今日は暇だからお前の代わりにわしが登校してやろう」というありがたい提案を即座に却下して、俺は学校に向かった。
 とりあえず鞄を置いてから五百旗頭のいる二年三組にでも行ってみようと思いながら、自分のクラスである教室の扉を開いた。
 いつもなら朝の挨拶が同級生達から聞こえてくるのだが、それが今日は違った。
 教室に入ってきた人間が俺だとわかると、教室内がざわつき出したのだった。
 何事かと目をぱちくりしていると、友人が声をかけてきた。ちなみにその友人の名前は猫田 文左衛門(ねこた ぶんざえもん)という嘘のような本当の名前だ。
「一豊、お前とんでもない奴に目を付けられたもんだな」
「おはよう餃子。で、どういう事なんだ? なんだか教室のみんなも俺をちらちら見てるような気が……」
 餃子とは、この猫田のあだ名である。一年生の時、お弁当箱一杯に餃子を押し込んで持って来たその日から、こいつのあだ名は餃子になった。
「そりゃ見るさ、いいから早くお前の机を見てみろよ」
 猫田に促されて、俺は自分の机へと急いだ。
 机上にはセロハンテープでメモが一枚とめられていて、こんな事が書いている。
『放課後、屋上に来い。絶対に来い。 五百旗頭 蘭々より』
 どうやら五百旗頭の方が先手を打ってきたようだ。
「一豊、お前何やらかしたんだよ? あの番長から呼び出されるなんてよ、もし俺だったらメモを見た次の瞬間には漏らしてるね。ジュースおごってやるから元気出せよな」
 猫田は俺の肩にできるだけ優しく手を置いて、励ましの言葉を贈ってくれた。
 そんな猫田の行動やクラスのみんなの反応を見る限り、『番長 五百旗頭 蘭々』という存在に相当な畏怖の念を抱いているのがわかる。
 五百旗頭はこのクラスのみならず、全校生徒から恐れられていたのだった。


 放課後、二組のみんなからの暖かい声援を背中に受けつつ、俺は指定場所である屋上へと向かった。
 屋上に出る扉の前まで来て、俺は深呼吸を一つしてから扉を開けた。
「おー、吾妻君や!」
 早速、弾けるような五百旗頭の声が飛んできた。
 屋上は伝統的に番長の縄張りとされており、現在の番長である五百旗頭もその伝統を引き継いでいた。
「来てくれたやねー、遠慮せんと入って入って!」
 五百旗頭はティーカップに注がれている紅茶をすすりながら、大手を振って俺を招き入れてくれた。
 屋上には学校の机と椅子の一式が五つ持ち込まれており、給食の時間の時のように四つの机は寄せられていて、残る一つの机はいわゆる先生が座る位置の所、要は上座に、白と黒を基調にしたいわゆるメイド服を着込んだ五百旗頭が座っている。襟首の辺りまで伸ばされた赤毛のボブカットヘアーには、カチューシャまで装着している本格的なコスプレだ。
 ただなぜそんなコスプレを、ましてや学校の屋上で着込んでいるのか、まったくの謎である。
「い、い、い、いらっしゃいませー……」
 突然、弱弱しく投げかけられたその声は聞き覚えのないものだった。声のした方へと目線を移すと、鮮やかなショッキングピンクの色をしたエプロンを着けて二足歩行で歩く猪が視界に入った。
 身長は約130センチといったところで、不安そうに俺を見上げている。同じくして俺も不安そうな顔でそれを見返した。
「しゃっせー」
 次に気だるそうに発せられた声も、やはり聞き覚えのないものだった。視線を猪から声のした方へと移す、くせ毛の黒髪をいじくりながらどこを見ているでもなく空の方をぼんやり眺めている女性が立っている。年の頃は俺とそんなに変わらないように見える彼女は、白いTシャツにジーンズという簡素な服装ながらも、抜群のスタイルの良さが相まってこの上なくお洒落に決まっている。まるで休日のモデルさんのようであり、正直言って綺麗だ、気だるそうにして姿勢をだらしなくしているのが実にもったいない。
「ようこそおいでなすった、どうぞお座りになってくだせえ」
 落ち着いた心地の良い低音の声がした、これも知らない声だった。声の主は、他に言い表し様のないほど、牛そのものであった。
 もう本当に牛で、こいつに至っては二足歩行すらしていない本当の牛だ。頭には大きくなめらかな角が生えていて、その先端は前方に伸びたかなり迫力のある立派なものだ。
 黒みがかった茶色の毛並みに身に着けているのは、目が醒める様な真っ赤なタンクトップ一着のみである。どうやって着たのだろうか。
 俺は深くて長い溜息を一つする。
 その間少しだけ考えてみた、二足歩行の喋る猪、気だるそうな謎の少女、喋る牛。
 溜息を終えて、せっかくなので牛の言う通り椅子に座ってから、五百旗頭に目線を送る。
「なぁ五百旗頭、こいつら」
 干支者だよな? と発する辺りで、五百旗頭は一杯に開いた右手を前に突き出して俺を制止させた。
「みなまで言わんでもわかっとる。そう、この子らは干支者やよ、ほらみんな自己紹介しい」
 そう言われた二匹と一人は、一列に並んで自己紹介を始めた。
「ぼ、僕は亥の刻の担当者、名前は鯨波といいます」
 そう言って鯨波は丁寧にお辞儀をしてくれたので、俺もお辞儀をして返した。
「命令すんじゃねぇよブスが! 臓物引きずり出して天日干しにすんぞゴラァ! ちっ……クソめんどくせえ、あたいは午の刻、ひのえ」
 五百旗頭におもいっきりガンをとばしながらそう言ったのは、さっきまでは謎の美少女だった彼女だ。干支者だったのもショックなら、口の悪さにもショックを受けた。
「あっしは丑の刻の担当者、名前を吉野と申しやす、以後お見知りおきを」
 落ち着いた物言いでそう言った牛、いや吉野は、深く頭を下げた。
 とりあえず一通りの新キャラクターの自己紹介も終わったので、五百旗頭に『四聖裏切りの真相』を切り出そうと思った。
 がしかし、吉野の自己紹介が終わるや否や、五百旗頭は持っていたティーカップを机上の皿に勢いよく置くなり立ち上がった。
「ただいまより、ここに新しい部活を発足させます!」
 右手を高らかに挙げて、五百旗頭はそう宣言した。
「ちょ、き、急に何を言い出すんだ五百旗頭」
 目を丸くして、俺はひどく困惑した。
「よっ、決まってやすぜ姉御!」
 鼻息を荒くした吉野が声援を送ると、五百旗頭はそれに「へへへ」と嬉しそうに照れ笑いで答えた。
「よっしゃ、まずはこの五人で部を盛り上げていこうやなの、なぁみんな」
 五人。
 という事は。
「なんですでに俺も部員になってるんだよ! だいたいどういった部活なんだよ?」
「それはズバリ、『番長に何でも相談してみよう部』や!」
「語呂が最悪! 俺はそんな部活入る気は毛頭ない!」
 俺はきっぱりと軽快なリズムでお断りを入れた。
「あらあら〜大声張り上げてえらい怖いわぁ、部長さん」
「……なんだって?」
 すると五百旗頭は、部活発足の申請書なる用紙を俺の眼前に持ってきて『部長:吾妻 一豊』と書かれた欄を指差した。
 そして次に俺を指差して。
「部長」
 そう言った五百旗頭の顔は、何の悪気も無い笑顔だった。
 俺はこの時をもって、『番長に何でも相談してみよう部』の部長になった。というか、すでに申請されていた。
 思わず見上げてしまった空は、腫れぼったい雲で一杯になっている。
 夜には、雨が降りそうだ。

原動力なのまだまだJoy!Joy!

boredoms2011-01-12

今年もよろしくお願い申し上げます。
すごくどうでもいいことを書きますけども、「ブースター」とか「ブースト」という言葉が物凄く好きです。
かっこいいですブースターとかブーストとか。
「メーターが振り切ってやがる!」とか「これ以上はエンジンがもちませんよ!」とかも凄く素敵です。
あと「薬莢」もいいですね。
あとはものすごいエネルギー砲みたいなの撃った後の冷却時間とかも好きです、プシュー的な感じのやつ。
あとは全弾命中したはずなのに煙の中からヌラァとゆっくり姿を現す無傷の宇宙戦艦とかもいいですね、「無傷……だと……!?」みたいなね。
ど、どうでもいい……。




獣王伝 雷血
第二話『青龍』


 昨日、ちょっとした事件が起きた。
 金曜ロードショーで放送していた『風の谷のナウシカ』を一家団欒で見ている時の出来事だ。
 ラストシーン手前で『ナウシカ・レクイエム』という歌が流れるのは結構有名な事だと思う、あの『ランランララランランラ』とうあれだ。
 その歌が流れ始めた時、テンションの上がってしまったルイチが唄い出したのを皮切りに、母さんがそれに続き、なぜかジイさんもつられて唄い出し、ついには合唱になってしまった。
 そして放送が終わる頃、母さんは五歳若返って、ジイさんは五歳年老いた。
 それは精神的というものでは決してなく、実際に年齢が変動してしまったそうだ。
 年齢が変動するなんて事をにわかには信じられないながらも、実際に母さんは心なしか俊敏さが増し、ジイさんは少しだけ耳が遠くなった。
 ルイチが言うには、ルイチの歌に反応した霊脈の力が、その実年齢の変動を引き起こしてしまったのだと説明をした。
 ただ当の本人であるルイチでさえ、なぜ無意識に霊脈の力が作用したのかさっぱりわからないそうだ。
 年齢がそう簡単に変動なんてして大丈夫なのかと思ったけれど、そんな心配をしていたのは俺だけだった。母さんは若返ったと聞いて褒め言葉して受け取ったようでニコニコしているし、ジイさんは耳が遠くなった為に何の事かいまいちわからない様子でとりあえずニコニコして頷き続け、ルイチはさっさと風呂に入りに行ってすでその場から姿を消していた。そんなこんなで、もうこれ以上は考えてもしょうがないという考えにたどり着き、やり過ごすことにした。
 そんな事を思い返しながら、俺は朝のジョギングをしている最中だった。
 ネズミ男爵との戦いで目覚めた白虎の力をより強固なものにする為には、体力強化が絶対に不可欠なのだと語ってくれたのはジイさんだった。経験者が言うのだから、まんざら嘘でもないだろうと信じた俺は、手始めにジョギングから始める事にしたのだった。
 今日は久しぶりに空が晴れた。家の中から眺める雨も決して嫌いなわけではないけれど、それでもやっぱり晴れというものはいいものだ。
 しかし、そんな上機嫌でジョギングをしている俺の足は、今は静止している。
 誰か心無い人間が捨てたのであろう、おそらくは弁当の空箱が入ったコンビニの袋をついばんでいるカラス達を発見した。
 それを見た時から、俺の足は止まってしまった。
 ついばんでいるのがカラスだけならなんの事はなかったのだけれど、黒い羽の鳥に混じって白い羽の鳥がいたのである。
 頭に朱い鶏冠のある、それはニワトリに違いなかった。
 しかも、はっきりと人語で叫び散らしている。
「てめぇカラス野郎、これは俺様が先に見つけた獲物だ、この朱雀様のもんよ!」
 呆然だ。
 ガッカリだ。
 俺は反射的に目を閉じた。
 もしかしたら、もしかしたら人違い(鳥違い?)かもしれないと心の一部分で期待はしていたのだけれど、そのニワトリは自分の事をはっきりと『朱雀』と、しかも『様』までつけて言い切ってしまったのだから間違いではないだろう。
 あのコンビニの袋をカラスと争いながらついばんでいるのは、間違いなく我らが四聖の一角を担う誉れ高き朱雀なのだ。
 俺は再び目を開けて、コンビニの袋をついばんでいる鳥達に近づいた。俺に気付いたカラス達はギャアギャアと鳴き、威嚇をしながら飛び去って行った、その場に一匹だけ残った朱雀は何事かときょろきょろとしている内に俺と目が合った。
「あ。白虎の坊主か。おはよう」
「おはよう。あの……一応さ、四聖なんだよな、あんた?」
「おうよ」
「気を悪くしないで聞いてくれよな、一応聞くがな、四聖ともあろうあんたが道端に落ちてる物なんてついばんでて大丈夫なのか? もっと誇り高く存在していなくて大丈夫なのかよ?」
「馬鹿野郎この野郎、誇りで腹がふくれるってのかよ? んなもんで腹がふくれるんなら俺様の腹は今頃はち切れてるはずだぜ」
 朱雀の朱い鶏冠がぴっと立ち上がった。
「そ、そうか、それは悪かった」
「おうよ、わかってもらって何よりだぜ。んな事よりな、丁度今からてめぇの家に行こうと思ってたところなんだよ、手間が省けてよかったぜ」
「朝ご飯でも食べに来るつもりだったのか?」
「馬鹿野郎たこ野郎、んな事じゃねぇよ。重要な知らせを持ってきたのさ」
「重要な知らせ?」
 俺は軽く首を傾げてみせた。
 朱雀の燃えるような紅い瞳が、俺を覗き込んだ。
「おうよ、重要な知らせだ。なんたって青龍が俺達四聖を裏切りやがったんだからよ」
「裏切った……?」
 青龍の現当主は、五百旗頭 蘭々(いおきべ らら)という人物だ。
 ネズミ男爵との戦いの翌日、ルイチから紹介を受けていたのでどんな人物なのかは知っていた。四聖の決まり事として、当主でない者が現当主との顔合わせをする事はご法度なのだそうで、だからネズミ男爵との戦いの時には俺一人で行ったわけだ。
 俺と同じ高校に通う彼女は、一言で表せば『不可思議』な奴だった。
 いつの頃からか不明ではあるが、俺の通う高校には伝統が一つだけある。その伝統とは女番長の継承である、ちなみに男の番長は存在しない。
 今の時代にそんな古めかしい伝統文化が存在しているというのが不思議で仕方がないのだけど、確かにその伝統は今も生きている。
 そして今その伝統を受け継いでいるのが、五百旗頭 蘭々なのである。
 高校入学試験の日、試験を終わらした当時中学三年生だった五百旗頭は、当時の女番長以下子分達が縄張りにしていた屋上をたった一人で襲撃、近年稀に見る激闘が繰り広げられたそうで、女子のものとは言いがたい怒号が屋上を埋め尽くしたそうだ、地獄絵図とまではいかないまでも、うら若き女達が雌雄を決する為に拳を交えるなんてものはとても尋常なものではない。
 そしてついに最後、そこに立っていたのは五百旗頭 蘭々、ただ一人だけ。
 五百旗頭 蘭々は中学校三年生の入学試験の日、見事女番長の大看板を手に入れたのだった。

俺のオトンがこんなにハゲてるわけがない

boredoms2010-11-17

ついにiPhoneに機種変更しました!嬉っ!
前の携帯は三年前のものでしたのでかなりの携帯力アップです。
まぁ見事に使いきれてませんしメールの打ち方も当然タッチ操作なのでまだ慣れません、んで画質が感動的に綺麗です、ちびります。
Tibiluyo!! iPhone
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獣王伝 雷血


「吾妻先輩!」
 雨の匂いがする六月らしいどんよりとした空の元、下校途中の俺を呼び止める声が聞こえた。
 若い女性の声だったので、淡い期待が胸に灯る。俺は軽く前髪をいじったりなんかして、はやる想いを抑えつつゆっくりと声のした方へと振り返る。
「先輩! 私、あなたが好きです!」 
 突然、告白を受けた。
 生まれて初めてだった。


第二章 第一話『戌の刻』


 声の主は、俺の通う高校指定の制服を着ており、いかにも恥ずかしそうにもじもじとして、胸元にこれまた高校指定の鞄を固く抱きしめている。その鞄にはバッチが付いていて、色は水色だ。それは一年生の配色であり、赤色が三年生で、緑色が我ら二年生のものだ。
「私の名前は犬束 千晶(いぬつか ちあき)と申します!」
 確かにバッチには『犬束』と刻まれている。
 フローラルだかなんだか、恐らくその類いのやわらかで安らかな香りが犬束さんから流れてきて、梅雨である事をつい忘れしまいそうになる。実にいい香りだ。
「入学式の時に先輩を見て、一目惚れして……」
 黒目がちのつぶらな瞳が、俺をちらちらと見ている。
 犬束さんの身長は一般的な女性の身長のそれだ。ざっと百五十センチくらいだろうか。
「いつ話しかけようかと思っていたんです……」
 しっとりと湿った小さな鼻先がぴくぴくと動き、彼女の全身を覆う透き通るような純白の毛並みが風に吹かれた。 
「私、やっと気持ちを伝えることができました」 
 にんまりと微笑んだ彼女の口元からは大変立派な犬歯がのぞき、スカートからは可愛らしいシッポがはみ出していて、それがぱたぱたと左右に振られている。
 それら犬束さんの外見から得られる情報を総合してみると、明らかに人間ではない。
 ちゃんと二足歩行で立ち、俺が理解できる言語を話す人間サイズの『犬』だ。そして品種は『マルチーズ』だろうと思う。
 そこから導き出された答え。
「あんた、干支者(えとのもの)だよな」
 と、こうなった。
「ま!?」
 犬束さんは抱きしめていた鞄をぼとりと落とした。なんとも分かりやすい反応ですごく助かる。
「わ、わ、わ、私は犬束ですよ、人間です、あなたの後輩ですよ、さぁ結婚しましょう」
「無理無理無理! ものすっごくマルチーズじゃないかあんた!」
 そこで犬束さんは地面でぐったりとしている鞄から手鏡を取り出すと、自分の姿を確認して、手鏡を落とした。
「……私とした事が、告白をする事に集中しすぎて人間に変化することを忘れていました。これでは作戦が台無しです、どうしましょうか?」
「それは俺に聞かれても困るよ。まさかとは思うけど、後輩キャラにメロメロになって油断したところを襲うとかいう類いの作戦だったのか?」
「近いですけど、少し違います。あなたと結婚して多額の保険金をかけた後に毎日の食事にトリカブトを少しずつ入れていって殺害するつもりでした」
「長丁場! 失敗して俺は何よりだ! で、この状況どうするつもりなんだ? それとな、器の小さな男と思われたくないから黙っているつもりだったけど、生まれて初めて告白された相手がマルチーズという俺の経歴をどう責任取ってくれるんだ」
 すると犬束さんはぶくぶくと太った灰色の雲をしばらく見上げて、再び俺に目線を合わせた。
「子供は、二人がいいな」
「急に何!? なんでそうなったの!? 話し聞いてないよね君!」
「お〜〜い、モルヒネ軍八郎ぅ〜ゲラッゲゲゲ」
 突然、地面の方から奇妙な声がした。
 俺の本来の『一豊(かずとよ)』という名前を『モルヒネ軍八郎(ぐんぱちろう)』という最低なネーミングセンスで呼びつけて、化け物のような笑い方をする人物は俺の知る限りではルイチしかいない。ただ、ルイチの身長は約百二十センチほどとしても地面の方から声がするのは何事だろうか、ほふく前進でもしていない限り聞こえてこない位置からの声だった。
 そんな事を考えながら、地面に視線を移す。
 アスファルトで黒々とした地面に、首から上だけをひょっこりと出したルイチが足元でニタついていた。それはまるで生首が道ばたに置かれているような状態になっており、非常にヘビーな現場だ。
「薄気味悪い登場するんじゃない!」
 俺はおもわずオクターブが二つほど上がったハイキーな声で叱咤した。
 一方の犬束さんも相当にビックリしたらしく、犬本来のいかにも獣らしい鳴き声でルイチに吠えまくっている。
 ニタニタとした顔の生首にビックサイズのマルチーズが吠えまくるという、なんともエキセントリックな場面ができあがってしまった。一般人がこの道を通らない事を願うばかりだ。
「うげー! これはまたでかい犬じゃな。ほれほれ、怖くない。怖くない。ほらね、怖くない……」
 ルイチは『風の谷のナウシカ』にあるワンシーンの真似をして吠えまくる犬束さんに手を噛まそうとしている。けれども完全に無視をされて吠え続けられている。しばらくしてルイチは遠い目をして「今日の金曜ロードショーナウシカなのに」とぶつくさ言って哀愁まじりの溜息を吐いた。
 それはそうと不思議な事に、ルイチの周りの地面がまるで水面のように波打っていることに気付いた。
「ルイチ、これはお前の術なのか?」
「そうじゃ、『土竜(もぐら)』というベタなネーミングの術でな、そこに霊脈が通ってさえおれば地面に潜る事ができる便利な術じゃ。ただ潜れるのは術者だけで、誰かを連れて潜ることはできん。そして何より、これは超高等術である!」
 ルイチは眩しいばかりのどや顔をしてみせた、でも未だに生首状態のままなのでまったく様になっていない。
 俺は試しにルイチの周りにある波打つ地面に恐る恐る触ってみることにした。見た目の印象とは違い、普通の地面と何も変わらない固い感触でしかなかった、確かに術者以外は潜れそうにない。
 生首ルイチにとりあえず納得した俺は、未だに吠え続けている犬束さんを落ち着かせる必要があった。ここら一帯は左右に一般住宅がずらりと並ぶ路地になっている、さすがにこのままでは近所の住人が様子を見に来るかもしれない。
「安心しろ犬束さん、この生首は俺の家族なんだよ」 
「ガウン! ビュオン! ブァルン! え!? あ! 家族って、あ、そうなのですか……すみません私、私てっきり妖怪の類いかと思ってビックリしてしまって」
 お前もその類いだろう、という言葉をなんとか飲み込んだ。
「気にする事はないぞ、犬に吠えられた程度で動じるわしではないわ。それよりもお主は日本語が上手な犬じゃな、ウエンツ瑛士と名付けようか」
「やめてあげろ。でルイチ、おまえは何の用事でここまできたんだ? 暇なのか?」
「なんじゃその言い草は、ベッド下のエロ本全部燃やすぞ? このわしがわざわざ傘を持ってきてやったのじゃ。ママ殿が持って行くと言うておったが、今日はママさんバレーがあるから代わりにわしが来てやったのだ」
 なぜベッド下に隠してあるエロ本をルイチが知っているのかという事は後で問いただすとして、傘は素直に助かった。
「そうだったのか、ありがとうルイチ」
「うんむ」
 ルイチは地面に潜っていた右腕を出して俺に傘を一本手渡してくれた。
「一本だけ持ってきたのか? お前の分の傘は?」
「わしはこのまま土竜で帰るから傘は不要じゃ。今日は沙織ちゃんの家でトバルナンバーワンを全クリする約束をしておるからな、んじゃお先に」
 沙織ちゃんとは家の近所に住んでる小学校四年生の女の子で、つい最近友達になったそうだ。
 そしてもうルイチは地面に潜って、すでにここから居なくなっていた。
 ルイチが居なくなってすぐに、ついに雨が降り始めた。
 俺は受け取った傘を差し、犬束さんは落とした鞄を拾い上げてそれを傘代わりとして頭の上に持ち上げている。
「雨が降ってきたので今日はもう帰りますけど、また必ず来ますからね」
「できれば二度と来ないで下さい。ところでお前、傘持ってないのか?」
「え? あ、持ってないですけど、大丈夫です、水も滴るなんとやらですよ」
「……そうか。それじゃ」
 別れる頃、雨は本降りになっていた。


 家に帰ると、ジイさんが玄関先で煙草を吸っていた。家族に配慮して外で煙草を吸うのがこの人の中でのルールだそうだ。
「ただいま、ジイさん」
「おう、おかえ……っておいおい、なんだおまえずぶ濡れじゃないか。ルイチ殿から傘を受け取らなかったのか?」
「子供の頃から、となりのトトロの勘太に憧れてたんだ」
「何? 今日の金曜ロードショーナウシカだろうに? タオル持って来てやるから上着脱いでなさい、風邪引いても知らんぞ」
 ジイさんはまだ吸いかけの煙草を携帯灰皿に押し込んで、タオルを取りに家に入って行った。
 俺は制服の上着を脱ぎながら、くしゃみを三回した。

 
 つづく

EDテーマは、さよならメモリーズ

boredoms2010-09-06

すっかり夜が過ごしやすい温度になってきた、けどやっぱりまだ暑い。
それよりも、あともう少しでけいおんが最終回を迎える、それが心底寂しい。
四人とも同じ大学に行けてよかったよかった、最後の憂ちゃんが伏せて泣いてるシーンが泣けるでやんす。
あの四人はきっと無事に卒業をするけれど、果たして僕も含めたけいおん厨の人達は、ちゃんとけいおんから卒業できるのだろうか、それが最近心配でならない。
放課後ティータイムは、永遠に、放課後です。
おねえええええええええちゃあああああああああん!




獣王伝 雷血
第一章 最終話


 ルイチの眠りは、かなり深いものだった。
 呼びかけようが、ほぺったをつねろうが、気持ち良さそうに寝息を立てるばかりで、一切として起きる気配がなかった。
 仕方がないので、ルイチを背負って帰ることにした。
 河川敷を上がって、家の方へと足を向ける。桜の花びらがびっしりと敷き詰められた道は、いつもの通学路だった。帰って来れたんだ、そんな事を今さらながらに考えた。
 一筋の雲もない、今はもうすっかり暗くなった空に、見事に半分だけ輝く月と幾つかの星がちらついている。なんてことはないそんな風景が、今はひどく愛おしく思えた。
「ふっふふ、オムライス」
 ぼんやりとした眠たそうな口調で、ルイチが急に呟いた。
「なんだ、起きたのか? まだ眠いんだろ? もう少しで着くから、寝てていいぞ」
「オムライスみたいじゃな、あの月」
 まどろみの中を彷徨っているかのような、うとうととした口調だった。
 確かに、半月とオムライスは似ている様にも思える。でも、やはり無理があると思った。半月からオムライスを連想するほど、俺はオムライスを愛してはいない。
「なぁ一豊、今日のご飯はなんじゃろうな?」
「なんだろうな、まぁ母さんのことだ、どうせお前の好きな物ばっかりで食卓が埋まってるよ」
 というのも、母さんはルイチの事がものすごく好きなのだ。ルイチが家に来てからというもの、俺やジイさんの好物が食卓に並ぶことはなくなった。
 今ルイチが着ている服だって、母さんのフルコーディネートだ。薄い灰色のTシャツに、裾口がふんわりと広がったギンガムチェック柄のバルーンワンピースを重ね着し、その上からさらにベイビーピンクの色をしたパーカーを羽織り、下には裾に花模様のレースをあしらった七部丈でボーダー柄のスパッツを穿き、足元はアンクルストラップのサンダルを履いて、バッチリと決まっている。
 母さんはこのルイチの服を買って来た時に、ついでに俺の分のTシャツも一枚だけ買ってきてくれた。けれどもそれは、胸元にでかでかと『豚三昧』とプリントされた果てしなくダサイ代物だった。家で着るのも気が引けて、まだ一度も着たことがないし、今後も着ることはないだろう。不平等にもほどがある、そう思ったものだ。
「じゃあじゃあ、オムライスはあるか?」
「またかよ……もちろんあるだろうさ、お前の一番の好物なんだから」
 ルイチはオムライスが大好物だった。愛していると言っても、過言ではないほどだ。吾妻の家に初めて来た時に食べたオムライスがあまりに美味かったらしく、それ以来、ルイチは母さんの作るオムライスの虜になったらしい。ちなみにこの一週間、朝も昼も夜も全てのメニューがオムライスだった、それは当然ルイチのリクエストに母さんが答えた結果だ。昨日なんて、さすがのジイさんも泣きながら黙々と食べていた。
「いっやほい! もずくはあるかの?」
「あるんじゃないかな」
「じゃあ、するめは!?」
「あるある」
「じゃあじゃあ、レンコンチップスは!?」
 言いながら段々と興奮してきたのか、ルイチの鼻息が俺の後ろ首にかかって少しくすぐったい。
「はいはい、あるある! 母さんがお前の好物を外すかよ。なんでかは知らないけど、母さんはお前の好物を察知する特殊能力があるみたいだからな」
「じゃあ、わしが家に帰らんかったら、ママ殿に悪いことをしてしまうのだな」
「え? どういう事だよ」
「さようなら、達者でな」
 そこで、思わず立ち止まってしまった。
 さようならと言った事に疑問を感じて、足を止めたのは確かなのだけれど、それよりもずっと気になったのは、背負っていたはずのルイチの重みが急に無くなったからだった。
 背中に目線を向けてみると、やはりルイチがいない。どこかで落っことしたのかと思って、来た道を目線で探ってみても、ルイチの姿は見当たらなかった。きょろきょろと首を右往左往していると、どこからともなく一枚の紙がひらひらと地面に舞い降りた。
 よく見ると、それは田護崎商店街にある肉屋「おにくの武田」のチラシだった。今日は先着二十名様のみ、コロッケが十個で百二十円という店の経営が心配になるようなセールをやっているようだ。
 俺はそのチラシを拾い上げた、かといってセールが気になったわけではない。おにくの武田の頑張りを打ち消すかのように、ルイチの字で『裏を読め!』と赤鉛筆で大きく書かれていたからだった。
 文字が指示する通り、俺はチラシを裏返してみた。そこにはこう書かれていた。
『実家に帰らせていただきます。ぶしつけながら、私の正体は超銀河系美少女アイドルなのです、要は宇宙人なのです。月の裏側に帰らなければいけません。色々と忙しいので、探さないでください。吾妻の家で過ごしたわずかな時間が、今のわしにとっての宝じゃ。本当にありがとう。また、逢う日まで』
 ルイチらしい、無茶苦茶な文章だ。嘘だと、すぐにわかる内容である。
 でもきっと、最後の部分だけは本当の気持ちなのだろうと思う。
 この一週間、ルイチはずっと笑顔で過ごしていた。楽しそうだった。
 だからこそ、これ以上一緒に過ごせば、別れるのが辛くなる。そう考えたのかもしれない。
 不老不死であるルイチは、想像もできないほどの別れを経験してきたに違いない。俺がいくら背伸びをしても、理解のできないほどの別れだ。
 家族や友人、それにあまり想像はできないけれど恋人もいたのかもしれない。当然ながら、その人達はもうこの世には存在しない、ただ歳を取らずに昔のままの姿のルイチが、ただ一人、今も生きている。
 白虎の世界でルイチの記憶ビデオを見た時から、なんとなく察していた。ルイチはもう、吾妻の家には帰って来ないんじゃないかと。
 ルイチと一緒に家に帰る。そう、決めていたのに。
「急に家に来て、急にいなくなるなんて、なんだよあいつ……」
 ルイチがオムライスに似ていると言った半分の月を見上げて、俺は深い溜息を吐き出した。胸でのた打ち回る空しさを吐き出すような、そんな溜息だった。
「……やっぱり、オムライスには見えないよ」
 それからまた、俺は家の方へと歩きだす。
「ルイチ。いつか必ず、帰ってこいよな」
 軽くなった背中に、まだ肌寒い五月の風が通り抜けていった。



 家に帰ると、誰も出迎えに来てくれなかった。
 いつもなら母さんかジイさんが出迎えてくれる。しかも今日は戦いに出掛けて帰ってきたというのに、誰も来てくれない。なかなか肝の据わった家族だと、少し心の中で皮肉ってみた。そういえばこの一週間の間は、ルイチが出迎えてくれていたんだ、なんてことも考えながら靴を脱ぐ。
 とりあえず帰って来た事を知らせようと思い、家族が待つであろう居間に続く廊下をとぼとぼと歩いて行く。するとなにやら居間が賑やかなのがわかった。
 最近ジイサンは四聖OB会の会長になったせいで、頻繁にこの家で会議が行われるようになった。なのできっと今日もその集まりなのだろうと思い、あいさつでもしようと居間の襖を静かに開けた。すると待ってましたとばかりに聞き慣れない声がした。
「いつまで待たせるんだよテメェ!」
 耳を劈くような、まるでニワトリが朝を告げるような、そんなとても大きな声だった。それに実際その声を出したのは、ニワトリだった。
 驚いてしまって、俺は止まった。
 喋るニワトリになんてもう今さら驚かない、俺が驚いたのは、そこにルイチがいたからだった。
「ル、ルイ……」
 なかなかうまく声が出ない。
 頭に喋るニワトリを乗せて、オムライスにがっつき、両方のほっぺたをリスの様に膨らませたルイチが俺を見上げた。
「おふぉかったふぁかぶふぉよ」
 口にオムライスが入っているので、まったく何を言っているのかわからない。
「ルーちゃん! 食べながらお喋りしちゃ駄目! デザートのプリンお預けにしますよ!」
 と叱咤したのは母さんだった。いつもは寝ているのか起きているのかわからないぐらいにふわふわとしている人なのだが、こういう躾に関してはかなり厳しいのが吾妻ころもという人なのだ。ただ甘いだけじゃない、そういう所に、ルイチへの愛が伺える。ただ、「ルーちゃん」という呼び方はどうかと思う。
 どうやらルイチは反省をしたようで、黙々と口の中のオムライスを噛んでいる。
「ほっほほ、だったら私のプリンをあげましょうなルイチ様」
 そう甘やかしたのはジイさんだった。この人は、ルイチに滅法甘い。
「お父様!」
「……はい」
 ジイさんはそう言って、また黙ってオムライスを食べ始めた。
「おいおいおい小僧、喋る鳥がいるってのにノーリアクションとはどういう風の吹き回しだ? なぁ、からんでくれよ、さみしいじゃねえかよ、な?」
 もうなんだかぐちゃぐちゃで、何から処理していこうかと考えた。ルイチは口の中にある大量のオムライスに夢中だ、なのでとりあえずニワトリから処理することにした。
「で、あんたはどういう生き物なんだ?」
「聞かれちゃ仕方がねえ、それじゃあ耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ小僧。俺の名は『朱雀(すざく)』、偉大なる四聖の一人だ!」
「何!? ただのニワトリじゃないか! 朱雀っていったらこう、なんというか、もっと荘厳な……」
「今のこの姿には色々と理由があるんだよ、ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ。それよりテメェ、この朱雀はニワトリじゃねえ……軍鶏だ! かっこいいだろう!」
「結局ニワトリじゃねえか! しかも軍鶏って言い切ったけど、朱雀だろ……大丈夫なのかよ四聖……」
「心配するでない一豊、今はこんなチンチクリンでも朱雀はめちゃくちゃ強いんじゃぞ」
 ルイチはそう言いながら、頭に載っている朱雀をなで回した。ようやく口に入っていたオムライスを食べきったようだ。
「ルイチ様のおっしゃる通りだぞ、昔は私も朱雀にはずいぶんと世話になったもんだな」
 ジイさんがそう言うのなら、信じてもいいのかもしれないと思った。とはいえ、完全に不信感が消えてたかといえば、そうでもない。
「それはそうと一豊や……ふふ、ぷっぷぷ」
「な、なんだよ気持ち悪いな、元からだけどさ」
 するとルイチはいつものだらしない猫背をしゃんと伸ばし、表情を固くして言った。 
「ルイチ。いつか必ず、帰ってこいよな」
 ルイチの引き締まった真剣な表情と、その言葉に、はっとした。 
「げ!? まさか、ルイチ、聞いてたのか……?」
「……コケッ……ココッ」
 ニワトリ丸出しの今の声は、もちろん朱雀のものだ。どうやらあれで笑っているらしく、なおかつ爆笑のようで、笑いすぎて白目をむいている。なんなのだろうか、あの薄気味悪い生き物は。
「ぷっ」
 ケチャップだらけのルイチの口元が、ふるふると震えて今にも吹き出しそうになるのを耐えているのが見てとれた。
「いや、あれはだな、別に……その……」
「ルイ、くくっく、チッ。いつ、か、くっくく、必ず、帰ってこぶっふうううー!」
 我慢の限界とばかりに、ついにルイチは吹き出した。その時にルイチの口から飛び出した五、六粒の米粒が見事にジイさんのかけている老眼鏡にくっついたが、今は気にする事でもない。
 妙にかっこつけた台詞を聞かれていたことがわかって、やはりまだ思春期である俺の顔は真っ赤になっていた。
「なんて悪趣味な奴だ……もういい! 着替えてきゅる!」
 最後の部分を思いっきり噛んでしまった。動揺しているのが自分でもよくわかる、今はこの場から早く離れたい一心だったのだ。
 居間の襖をぴしゃりと閉めて、自分の部屋へと足を進めようとした。
 その時だった。
「ふふふっ……嬉しかったぞ、一豊」
 襖の向こうから聞こえたその言葉に、進みかけた足を電撃的に後退させた俺は、もう一度居間に顔を出して、ルイチに問いかける。
「今、なんか言ったか?」
 ルイチは確かに「嬉しかった」そう言ったのだ。本当は聞こえていたけれど、もう一度だけ俺はその言葉が聞きたかった。悪趣味は俺も同じだ。
「あばばばばばば、き、聞こえておったのか、悪趣味な奴じゃ……」
 ルイチはぷいっと俺から視線を外し、ふくれっ面でオムライスへと視線を落とした。
 本当に気難しい性格だ、そう思いながら、俺はぽりぽりと顔をかきながら次の言葉を探していた。
 でもなかなか気の利いた言葉を探せないでいた。
 そんな俺を見て、少しだけ微笑んでルイチが言った。
「いつまで突っ立ておるのだ、早く座らんか。じゃがその前にな、家に帰ってきたんじゃ、何か言い忘れておる言葉があるとは思わんか」
「そうか、そうだったな」
 そういえば、まだ言ってなかった言葉があった。
 ルイチにとって、そして俺にとっても、きっと大きな意味のある、大切な、平凡な言葉だ。
「ただいま、ルイチ」
――なぁ、白虎。
「うんむ! おかえり、一豊!」
 今の言葉が、届いただろうか。
 今のルイチの顔が、見えているだろうか。
 なぁ、白虎。
 お前が、ずっと見たかった。
 とびっきりの笑顔だ。


第一章 最終話『ただいま』  終

渚ぁぁぁ!

boredoms2010-08-15

PSPがバグってしまいました。
喧嘩番長4を必死で頑張っていたのに、もうあの岡崎朋也(オリジナルキャラの名前)に会えないなんて…




獣王伝 雷血
十九話『帰り道』


 ルイチとネズミ男爵が笑い始めてから、もう五分が経過した。
 二人の笑いはまだまだ続きそうなので、なぜさっきまでは敵だったネズミ男爵と、こんなにも打ち解けているのか、という説明をしておこう。なぜ前の話しでそれを説明しなかったのかというと、単に作者の腕不足に他ならない。
 

 ルイチの熱唱治癒術により、完全回復に至ったネズミ男爵はすぐに目を覚まして、寝そべりながら俺に向かってこう言った。
「……なぜ、治癒術を黙って見ていたのですか雷血殿? 敵である私を助けてしまうなんて……私が再び攻撃を仕掛けてきたら、どうするおつもりなのです? スタミナが残っていないあなたに、今の私が倒せますか?」
 そうやって、ネズミ男爵は俺に問い掛けた。
 俺はその問いに、「そんな気、全然ないくせに」と、笑って返した。
 というのも、リス、小鹿、ふくろう、ウサギ、小熊、他にも色んな小動物達が、ネズミ男爵の寝そべる周りをとり囲んでいたのだ。きっと、ネズミ男爵が心配になって集まってきたのだろう。殺意の欠片すら感じられない、穏やかなで、愛に溢れた風景だった。
 俺はネズミ男爵に、「人気者なんだな、あんた」と言うと、「みんな、私の友人です」そう言って、嬉しそうに笑った。
 それからは、もうすっかり打ち解けることができた。ルイチに至っては、小動物と戯れて、木の実やら、何かの種やらをもらっていたようだ。


 と、いうことで、今に至るわけなのだが、二人の馬鹿笑いが始まって、今でもう十分が経つ。途中から、笑っていない俺の方がおかしいのだろうか、とさえ思えてきたくらいだ。そしてそんな馬鹿笑いも、ようやく止みそうだ。 
「がっはっは、いやー久々にこんなに笑わせて頂きました、笑いすぎて、涙が出ましたよ」
「ふっふっふ、いやはや、我ながら最高のダジャレを生み出してしもうた、これはメモっておこうかの」
 そう言うとルイチは、背負っているリュックサックから鉛筆とA4ノートを取り出して、嬉々とした表情で、自身が生み出した最高のダジャレを書き殴るのだった。
「ヒッヒヒヒ」
 毒りんごを作る年老いた魔女のような陰湿な笑い方をしながら、ルイチの筆が舞う。
「さぁ、もう満足だろ? そろそろ頼むよ、ネズミ男爵」
「はい! それでは……ふぬん!」 
 掛け声と共に、ネズミ男爵は本当に浮き上がった。理屈は一切わからないけれど、ちゃんと立派に宙を浮いている。
 ゆったりと高度を増して、地面が段々と遠のいて行き、ネズミ男爵の半壊した家が、ずいぶんと小さく見える高さにまで浮上した。
「発進、致しますぞ!」
 俺達を抱えたネズミ男爵の身体は、ゆっくりと前へと進んで行った。
 段々と、風を切る音が大きくなっていき、加速していることがわかった。最終的には、かなりの速度に達していて、ジョットコースターに乗った時の感覚を思い出していた。
「ヘイヘイヘーイ! これは爽快じゃ! 褒美に今度、チーズを買ってやろうかネズちゃん、奮発してメッチャクソチーズを買ってあげような」
 たった今、ルイチがずいぶんと珍妙なチーズの名称を発言したが、それは多分、モッツァレラチーズの間違いだと思われる。
「それはありがたい事です、是非とも今度ごちそうになりましょう。一応、私もネズミなわけでして、ご多分に漏れず、チーズが大好物なのですよ」
「そうかそうか、楽しみに待っておれよ。ところで、わしな、高所恐怖症なんじゃ、助けて欲しい」
「ええ!? 今頃それ言う!? 飛ぶ前に、なんで言わなかったんだよ?」
「……うっかり……ね」
 言うとルイチは、ペロッと舌を出してから、自身の頭を軽くこついてみせた。もはや、絶滅危惧種級とも言うべき表現方法だ。
 それにしても、もはやこれは「うっかり」という言葉でカバーできるレベルを超えている、うっかり八兵衛でもここまでうっかりはしないはずだ。
 高所恐怖症だとわかっていれば、歩いてでも帰ったものを、言うのが飛んでからでは、もう遅すぎる。
 結構な高度で飛んでいるので、高所恐怖症の人間からしてみれば、それなりに危険なレベルのはずだ。さらに、飛行速度の速さが、恐怖感に拍車を掛けているだろうと想像する。 
「いいかルイチ、」
 下を見るんじゃないぞ。
 と、発声をする頃には、すでに手遅れだった。ルイチは、おもいっきり見開いた瞳で、眼下を見下ろしていたのだ。
「……」
「ルイチ……?」
「降ろしてたもー! 地面が恋しい! 地面を! あ、空! 空が落ちてくゆ!」
「姫君様! お気を確かに! い、今すぐ高度を下げますゆえ!」
「お、落ち着けよルイチ! 我慢だ! 根性だ! 女の子だろうに!」
「ぜぁぁぁあああ!!」
 ルイチのすごくカッコイイ咆哮が、空を駆けていった。
 ルイチの中で、何かがキレた。
 ネズミ男爵の毛を千切っては投げ、千切っては投げを、無我夢中で繰り返す、そんな半狂乱状態にルイチは陥ってしまったのだ。
 ネズミ男爵は自身の毛を抜かれる度に、口を大きくあんぐりと開けて、脱毛の痛みを訴えるように、何度となく叫ぶのだった。図らずも、トトロのワンシーンを見ているようで、ネズミ男爵には悪いけれど、少しだけドキドキした。


 無事、家の近所の河川敷に、着陸することができた。
 しかし、「無事」と言えば嘘になるだろう。その理由としては、ルイチのしがみ付いていた周辺のネズミ男爵の毛並みが、すっかり綺麗にむしり取られて、ピンク色の地肌があらわにされていたからだ。
「わぁ……大丈夫か、ネズミ男爵……? おい、謝るんだぞルイチ」
「い、言われずともわかっておる、すすす、すまぬ、ネズちゃん……」
 ルイチはようやく地面に足が着き、正気を取り戻したようだ。
 ルイチの固く握り締められた小さな拳の間から、クリーム色をしたネズミ男爵の毛が、束になってはみ出している。
「心配いりません、大丈夫、明日にはまた生えますから。それより、姫君様はもう平気ですかな?」
「うんむ、わしはもう平気じゃ」
 言いながら、後ろに手を回し、握っていた毛の束をぞんざいに放り投げた。まったく、傍若無人な女だ。
「色々と悪かったなネズミ男爵、ここから歩いて帰るよ、ここからだったら十五分くらい歩けば家に帰れるよ。あんたは、また飛んで帰るのか?」
「いや、帰りはタクシーです」
「げ、現実的だな……」
「それでは、お気をつけて」
「ありがとう、助かったよ」
 それからネズミ男爵は、一礼してから振り返り、トコトコと歩いていった。繁華街のある方に歩いて行ったので、本当にタクシーを拾いにいったのだろう。
 しかし、あの姿のままで繁華街に行って、おまけにタクシーにまで乗るつもりなのだろうか。乗車拒否をくらうのは確実と言ってもいいだろう、もし、あいつが乗車できるとすれば、それはネコバスくらいのものだと思う。それらの問題を、ネズミ男爵がどうやって解決するのか、それはかなり気になった、が、それよりも気になることが俺の足元で起こっている。
 ルイチが、なぜか道ばたで寝転んでいるのだ。いびきが聞こえるので、本当に急すぎるが、眠っているようだ。ただ問題なのは、うつぶせになっているせいで、地面に顔がぺったりと密着して、鼻も口も完全に塞がれた状態になっており、その為に息が出来なのであろう、プルプルと震えている。
「うおいいーーー!」
 小刻みに震えて、窒息死しそうなルイチを迅速に抱き上げる。
「ぶっはー! げぶ! げふげふっ! ぜぇはぁぜぇはぁ」
 ルイチは、必死の形相で酸素の供給に努めている。
「へ、平気か? 大丈夫かよ?」
 抱き上げた状態のままのルイチを、慎重に地面へと立たせてやった。
「ぶっひー、助かった、危ない所であった。なにせ、鏡餅を丸呑みした夢を見ておったのじゃからの。あれはさすがに危なかった、でもお美味しかった」 
「どんだけハラペコなんだよお前……そんな事より、どうしたんだよ急に寝たりして、疲れたのか?」
「そうじゃな、かなり疲れておる。やはり、一日の間に治癒術を二回、それもおまけに完全回復の治癒じゃ、流石のわしでも力の使いすぎじゃの、さすがに堪えるな、すごく眠い、もう眠くておやすみのキスもできなすぴー」
「話しながら寝た! のび太でも無理!」
 びたーん、という安直な効果音と共に倒れこんだルイチは、地面におやすみのキスをした。

姫様 笑うとる……

boredoms2010-07-22

借りぐらしのアリエッティを、公開日当日に男三人(他のお客は、カップルか家族連れでした、わふー)で見に行きましたが……面白かったと思います!
生意気な事を言うと、期待はしていなかったのですが、すごく良かった。
小人の世界をうまく表現していたり、音響の表現が良かったりしましたが、個人的にはそんなことよりも、アリエッティが抱える問題と、病弱な青年が抱える問題とが重なって、ぐっと来ました。
心臓の病で、そう長くはないんだ。と、青年が語った後のかくかくしかじかの頑張りっぷりに、僕は勝手に想像を膨らませてしまい、この青年は生きた証を、爪痕を残そうとしているんだ!と想像したら、じわっとした。
何度読み返しても意味不明な感想になってしまった、ただ、面白かったという事が言いたいだけなんです。
スタジオジブリは、やっぱり良い。



獣王伝 雷血
十八話『帰り支度』


「帰りは私が送りましょう、バスはすでに終電が出てしまった」
 まだ五時半をまわった頃だというのに、もう終電が出たそうだ。確かに、こんな辺鄙な山奥だ、バスが早い時間に終電を向かえたとしても、誰も文句は言うまい。
 ネズミ男爵の提案は、こちらとしては助かるものだった。
 もちろん、白虎の力を宿した今の自分ならば、ルイチを肩車に乗せ、走って帰る事は案外と容易な事だ。しかしながら、今の俺の体は、筋肉痛のようなギシギシとした酷い痛みが、体中を残りなく走っていて、疲労感も相当なものだ。
 白虎の力を頭では理解していても、体にかかる負担が軽いわけではない、突然に未体験の力で行動した事により、体が悲鳴を上げているのだろうと思う。体をもう少し鍛える事と、白虎の力に慣れる事が、今後の課題と思われる。
「準備に少し時間がかかりますので、座って待っていて下さい」
 言って、ネズミ男爵は腹に空気を溜め込むように、ゆっくりと息を吸い込み始めた。
 ところで、今はこうして気さくに話しているネズミ男爵だが、たった五分前までは、まるで違う姿をしていた。
 俺が殴りつけた前歯の根本からは血が吹き飛び、突き破った壁の残骸の一つが背中に奥深く刺さり、影腹を切っていた腹からは臓物がぞろりとはみ出していた、「凄惨」という言葉をそっくりそのまま表現したかのような状態だったのだ。
 もう、ブラック・ジャック先生でも駆けつけない限り、救えないであろう瀕死状態のネズミ男爵を蘇えらせたのは、他でもないルイチだった。
 ルイチは、ネズミ男爵に駆け寄り、まるで聖母のような優しさでネズミ男爵の手を取り、祈るように、慈しむように目を瞑って治癒術に意識を集中させる。
 のだと、思っていた。
 今のはあくまで、俺が思い描く「治癒術」のイメージを想像したにすぎない。現実の治癒術とは、そんなに美しいものではなかった。
 実際にルイチが行った治癒術とは、以下の通りだ。
 ネズミ男爵に駆け寄り、素早く耳元にしゃがみ込むと、ネズミ男爵に向かって、何やらひそひそと囁きだしたのだった。
 その囁きの内容は、歌である。
 ルイチは歌を唄ったのだった、「あたし中卒やからね……仕事をもらわれへんのやと書いた」と、確かにそう聞こえた。
 唄っているその歌は……中島みゆきの「ファイト!」だった。
 なんて選曲!
 呆然と見つめる俺を置いてけぼりにして、歌はどんどん進んでいった。
 ルイチの声量は徐々に大きくなり、ついにはネズミ男爵の小さな耳を、マイク代わりと言わんばかりに握りしめて、ルイチは恍惚の表情へと変化していった。
 そんなルイチとは正反対に、ネズミ男爵からは終始、苦しそうな唸り声が漏れていた。当然、傷の痛みで唸っていたのだろうけど、でも、違ったのかもしれない。そう思う、理由。それは、ルイチの歌声が、驚天動地、震天動地、情け容赦なく、えげつなく、恐ろしく、音痴だからだ。
 唄い始めてからというもの、さっきまではいなかったはずのカラス達が合唱を始め、風は止み、聞いたことのないような獣の声が遠くから聞こえたりして、山全体がザワついているようにさえ思えた。
 そして、いよいよ歌がサビに入る、その瞬間! ルイチのテンションは頂点に達し、天を衝く勢いで立ち上がった、と同時に、握ったままにされたマイク代わりの耳はひっぱり上げられて、ネズミ男爵からは悲鳴交じりの唸り声が漏れた。
 夕日が最高潮の空を振り仰いで、ルイチはとうとう歌い上げたのだった。
 ところで、肝心な傷の回復がどうなったかというと、唄い始めてから数秒して、はみ出した臓物がまるで意志を持ったかのように、ネズミ男爵の腹へと自ずと収まっていく様子を見て、これは何か見てはいけないモノを見たのだ。と、自己完結をして、それからはずっと花壇を眺めていた。ヌルヌル動く臓物を直視できない、根性なしの主人公を、笑うがいいさ。
「お待たせしました、準備ができましたぞ、さぁ私にしがみ付いて下さいませ」
 ネズミ男爵がそう言うので、そちらに視線を向かわせる。
 二階建ての家よりも、少し大きいぐらいの大きさに膨れ上がったネズミ男爵が、そこにいた。
「ネズミがでかい!」
 と、率直すぎる事を言ってしまった。
「なんだよ、その身体……」
 ネズミ男爵は、まるでトトロのように丸々と大きく膨らんでいた、空気をいっぱいに吸い込んでいた理由は、この姿になる為だったのだ。
「一豊や、おまえも早くしがみ付かんか! あまりレディーを待たすものではないぞ」
 ルイチは、早々にネズミ男爵の胸の辺りにしがみ付いていた。ネズミ男爵は、ルイチが落っこちない様に、そっと手を回して支えている。なんとも良い奴だ。
「わ、わかったよ、よくわからないけど、しがみ付けばいいんだろう」
 言って、俺もネズミ男爵の、ルイチがしがみ付いてもまだ余りある胸の辺りにへとしがみ付く。
「毛を握って大丈夫なのか? 痛くないのか? 抜けないのか?」
「大丈夫ですとも、ちょっとやそっとじゃ私の毛は抜けませんから、痛みもさほどありませんし」
「そうか、で、こっからどうなるんだ?」
 突然、ネズミ男爵の髭がピンっと起き上がって、空を指した。
「飛ぶのですよ」
「飛ぶ……って、飛べるのかあんた?」
「実は、飛べるんですよ私」
「ほぉぉぉ、やるではないかネズちゃん。ネズミだけに、宙(チュー)に浮くとは、な!」
「……っ」
 つ、つまらん! 非常につまらん!
「がっはははっはっがっははは!!」
 ネズミ男爵の大爆笑が、大気を揺らした。どこにそんなにツボったのか、不思議で仕方がない。
「ゲッラゲラゲラゲラゲゲッゲゲ!!」
 この、まるで妖怪のような笑い声は、ルイチのものだ。
 改めて、薄気味悪い連中だ、そう思った。