渚ぁぁぁ!

boredoms2010-08-15

PSPがバグってしまいました。
喧嘩番長4を必死で頑張っていたのに、もうあの岡崎朋也(オリジナルキャラの名前)に会えないなんて…




獣王伝 雷血
十九話『帰り道』


 ルイチとネズミ男爵が笑い始めてから、もう五分が経過した。
 二人の笑いはまだまだ続きそうなので、なぜさっきまでは敵だったネズミ男爵と、こんなにも打ち解けているのか、という説明をしておこう。なぜ前の話しでそれを説明しなかったのかというと、単に作者の腕不足に他ならない。
 

 ルイチの熱唱治癒術により、完全回復に至ったネズミ男爵はすぐに目を覚まして、寝そべりながら俺に向かってこう言った。
「……なぜ、治癒術を黙って見ていたのですか雷血殿? 敵である私を助けてしまうなんて……私が再び攻撃を仕掛けてきたら、どうするおつもりなのです? スタミナが残っていないあなたに、今の私が倒せますか?」
 そうやって、ネズミ男爵は俺に問い掛けた。
 俺はその問いに、「そんな気、全然ないくせに」と、笑って返した。
 というのも、リス、小鹿、ふくろう、ウサギ、小熊、他にも色んな小動物達が、ネズミ男爵の寝そべる周りをとり囲んでいたのだ。きっと、ネズミ男爵が心配になって集まってきたのだろう。殺意の欠片すら感じられない、穏やかなで、愛に溢れた風景だった。
 俺はネズミ男爵に、「人気者なんだな、あんた」と言うと、「みんな、私の友人です」そう言って、嬉しそうに笑った。
 それからは、もうすっかり打ち解けることができた。ルイチに至っては、小動物と戯れて、木の実やら、何かの種やらをもらっていたようだ。


 と、いうことで、今に至るわけなのだが、二人の馬鹿笑いが始まって、今でもう十分が経つ。途中から、笑っていない俺の方がおかしいのだろうか、とさえ思えてきたくらいだ。そしてそんな馬鹿笑いも、ようやく止みそうだ。 
「がっはっは、いやー久々にこんなに笑わせて頂きました、笑いすぎて、涙が出ましたよ」
「ふっふっふ、いやはや、我ながら最高のダジャレを生み出してしもうた、これはメモっておこうかの」
 そう言うとルイチは、背負っているリュックサックから鉛筆とA4ノートを取り出して、嬉々とした表情で、自身が生み出した最高のダジャレを書き殴るのだった。
「ヒッヒヒヒ」
 毒りんごを作る年老いた魔女のような陰湿な笑い方をしながら、ルイチの筆が舞う。
「さぁ、もう満足だろ? そろそろ頼むよ、ネズミ男爵」
「はい! それでは……ふぬん!」 
 掛け声と共に、ネズミ男爵は本当に浮き上がった。理屈は一切わからないけれど、ちゃんと立派に宙を浮いている。
 ゆったりと高度を増して、地面が段々と遠のいて行き、ネズミ男爵の半壊した家が、ずいぶんと小さく見える高さにまで浮上した。
「発進、致しますぞ!」
 俺達を抱えたネズミ男爵の身体は、ゆっくりと前へと進んで行った。
 段々と、風を切る音が大きくなっていき、加速していることがわかった。最終的には、かなりの速度に達していて、ジョットコースターに乗った時の感覚を思い出していた。
「ヘイヘイヘーイ! これは爽快じゃ! 褒美に今度、チーズを買ってやろうかネズちゃん、奮発してメッチャクソチーズを買ってあげような」
 たった今、ルイチがずいぶんと珍妙なチーズの名称を発言したが、それは多分、モッツァレラチーズの間違いだと思われる。
「それはありがたい事です、是非とも今度ごちそうになりましょう。一応、私もネズミなわけでして、ご多分に漏れず、チーズが大好物なのですよ」
「そうかそうか、楽しみに待っておれよ。ところで、わしな、高所恐怖症なんじゃ、助けて欲しい」
「ええ!? 今頃それ言う!? 飛ぶ前に、なんで言わなかったんだよ?」
「……うっかり……ね」
 言うとルイチは、ペロッと舌を出してから、自身の頭を軽くこついてみせた。もはや、絶滅危惧種級とも言うべき表現方法だ。
 それにしても、もはやこれは「うっかり」という言葉でカバーできるレベルを超えている、うっかり八兵衛でもここまでうっかりはしないはずだ。
 高所恐怖症だとわかっていれば、歩いてでも帰ったものを、言うのが飛んでからでは、もう遅すぎる。
 結構な高度で飛んでいるので、高所恐怖症の人間からしてみれば、それなりに危険なレベルのはずだ。さらに、飛行速度の速さが、恐怖感に拍車を掛けているだろうと想像する。 
「いいかルイチ、」
 下を見るんじゃないぞ。
 と、発声をする頃には、すでに手遅れだった。ルイチは、おもいっきり見開いた瞳で、眼下を見下ろしていたのだ。
「……」
「ルイチ……?」
「降ろしてたもー! 地面が恋しい! 地面を! あ、空! 空が落ちてくゆ!」
「姫君様! お気を確かに! い、今すぐ高度を下げますゆえ!」
「お、落ち着けよルイチ! 我慢だ! 根性だ! 女の子だろうに!」
「ぜぁぁぁあああ!!」
 ルイチのすごくカッコイイ咆哮が、空を駆けていった。
 ルイチの中で、何かがキレた。
 ネズミ男爵の毛を千切っては投げ、千切っては投げを、無我夢中で繰り返す、そんな半狂乱状態にルイチは陥ってしまったのだ。
 ネズミ男爵は自身の毛を抜かれる度に、口を大きくあんぐりと開けて、脱毛の痛みを訴えるように、何度となく叫ぶのだった。図らずも、トトロのワンシーンを見ているようで、ネズミ男爵には悪いけれど、少しだけドキドキした。


 無事、家の近所の河川敷に、着陸することができた。
 しかし、「無事」と言えば嘘になるだろう。その理由としては、ルイチのしがみ付いていた周辺のネズミ男爵の毛並みが、すっかり綺麗にむしり取られて、ピンク色の地肌があらわにされていたからだ。
「わぁ……大丈夫か、ネズミ男爵……? おい、謝るんだぞルイチ」
「い、言われずともわかっておる、すすす、すまぬ、ネズちゃん……」
 ルイチはようやく地面に足が着き、正気を取り戻したようだ。
 ルイチの固く握り締められた小さな拳の間から、クリーム色をしたネズミ男爵の毛が、束になってはみ出している。
「心配いりません、大丈夫、明日にはまた生えますから。それより、姫君様はもう平気ですかな?」
「うんむ、わしはもう平気じゃ」
 言いながら、後ろに手を回し、握っていた毛の束をぞんざいに放り投げた。まったく、傍若無人な女だ。
「色々と悪かったなネズミ男爵、ここから歩いて帰るよ、ここからだったら十五分くらい歩けば家に帰れるよ。あんたは、また飛んで帰るのか?」
「いや、帰りはタクシーです」
「げ、現実的だな……」
「それでは、お気をつけて」
「ありがとう、助かったよ」
 それからネズミ男爵は、一礼してから振り返り、トコトコと歩いていった。繁華街のある方に歩いて行ったので、本当にタクシーを拾いにいったのだろう。
 しかし、あの姿のままで繁華街に行って、おまけにタクシーにまで乗るつもりなのだろうか。乗車拒否をくらうのは確実と言ってもいいだろう、もし、あいつが乗車できるとすれば、それはネコバスくらいのものだと思う。それらの問題を、ネズミ男爵がどうやって解決するのか、それはかなり気になった、が、それよりも気になることが俺の足元で起こっている。
 ルイチが、なぜか道ばたで寝転んでいるのだ。いびきが聞こえるので、本当に急すぎるが、眠っているようだ。ただ問題なのは、うつぶせになっているせいで、地面に顔がぺったりと密着して、鼻も口も完全に塞がれた状態になっており、その為に息が出来なのであろう、プルプルと震えている。
「うおいいーーー!」
 小刻みに震えて、窒息死しそうなルイチを迅速に抱き上げる。
「ぶっはー! げぶ! げふげふっ! ぜぇはぁぜぇはぁ」
 ルイチは、必死の形相で酸素の供給に努めている。
「へ、平気か? 大丈夫かよ?」
 抱き上げた状態のままのルイチを、慎重に地面へと立たせてやった。
「ぶっひー、助かった、危ない所であった。なにせ、鏡餅を丸呑みした夢を見ておったのじゃからの。あれはさすがに危なかった、でもお美味しかった」 
「どんだけハラペコなんだよお前……そんな事より、どうしたんだよ急に寝たりして、疲れたのか?」
「そうじゃな、かなり疲れておる。やはり、一日の間に治癒術を二回、それもおまけに完全回復の治癒じゃ、流石のわしでも力の使いすぎじゃの、さすがに堪えるな、すごく眠い、もう眠くておやすみのキスもできなすぴー」
「話しながら寝た! のび太でも無理!」
 びたーん、という安直な効果音と共に倒れこんだルイチは、地面におやすみのキスをした。