もう、ゴールしてもいいよね
先日、奇跡的に女の子とデートに行く予定がありました。
実に珍しいことです。
八年ぶりです。
昔から、珍しいことをすると雨がふるなんてことを言いますが。
僕の場合は、台風が来ました。
もちろん中止になりました!
へけっ!
そして、仲間内でしか読んでいない、いや仲間内ですら読まれていない物語の本編がちょっと本当にいきずまってきまして、素人が調子に乗って物語なんて書こうとするからこんな事になるのですね、すみません、もう、ゴールしてもいいよね。今回より中断して、誰も得をしない、仲間内しかわからない、いや書いている自分ですらわからない、いきあたりばったりの番外編がスタートです。
獣王伝 雷血【 番外編 Last Challenger 】
第一話「挑戦者、目覚める」
夜の九時には床に就き、午前四時には目を覚ます。
歯を磨き、顔を洗って、日課である寒風摩擦を済ましたら、ママ殿に買ってもらった『くまの子 べ〜やん』がバックプリントされた上下スウェットの可愛らしいルームウェアに着替え、新聞を取ってテレビ欄とチラシに目を通す。
それから朝ご飯までにはまだ時間があるので、こっそりと、家族にバレない程度にストックしてあるお菓子を食べる。ついつい食べ過ぎて、たまにバレそうになる時があるものの、その時は仁成か一豊、はたまた朱雀のせいにでもすればよい。
わしの朝は、だいたいこんな感じから始まる。
そして今日という今日もお菓子を食べ過ぎてしまった。ポテチ二袋を肴に、コーラをがぶがぶといって1リットルサイズを空にしてしまった。
おデブな欧米の子供でもあるまいし、さすがに自分でも朝っぱらからこれではまずいと反省をしつつ、三袋目の封を切っていた。
「あっ」
完全に、無意識であった。
まだアホ面で寝ている一豊の部屋に忍び込み、空っぽになったポテチの袋を三つともその部屋のゴミ箱へと押し込んだ。いわゆる「いんぺいこうさく」というやつである。
空になったコーラのペットボトルは、まだ寝ていた朱雀を叩き起こし、このペットボトルを七個集めたら願いが叶うのだと教えてやると、ペットボトルをたいそう大事そうに抱え込み、喜び勇んで東の方角へ飛んで行った。相当な阿保である。この手であと六回は「いんぺいこうさく」ができそうだ。
そうこうしている内に朝ご飯の時間になった、たとえ千年生きていようと、ご飯を食べる時というのが一番幸せである。自分は生きている、生かされていると感じる瞬間だ。
今日も仁成、一豊の目を盗みながら、彼奴等のおかずをかすめ取ることに成功した。今日の成果は卵焼きを三つ、めざしが二匹、、味噌汁の具の大半、デザートのヨーグルト二個、とまずまずの成果であった。
「……なぁころもさんや、わしの味噌汁に具がまったく入っていないんだが」
「あらあらお父様ったら、お食べになったのでしょう?」
すると仁成は、ゆっくりとおでこの辺りを撫でながら、遠くの方を見ている。
「そうだったか……食べた様な、食べていないような」
この様である。
食卓は戦場だ、それに気付かない彼奴等はおかずを盗られても当然なのである。むしろ感謝してほしいぐらいだ、食卓の厳しさを教えてやろうと頑張っているのだから。別におかずを多く食べたいから、とかいう理由では決して無い、絶対にない。
「なぁルイチ」
話しかけてきたのは一豊である、卵焼きを盗られたことも知らずにのん気にご飯をもそもそと食べている。まぬけな面構えだこと。
「なんじゃ、一豊。今さら返さんぞ、これはわしのじゃ」
「……?」
一豊は訳がわからないといったような顔をして少し首を傾げた、まったくのん気なものである、傾げた首がそのまま折れればいいのにとさえ思える。
「ところでだな、ルイチ」
「なんじゃしつこいなアホ、わしの幸福時間を邪魔するなアホ、ボケ、のろま」
「いやさ、ちょっと前から聞こうと思ってたんだよ」
「ん?」
「もしかしてお前って、最近太ったんじゃないか?」
「……」
思わず、持っていた箸を落とす。
わしはアレだ、簡単に言うと、ブチギレた。
レディーに言ってはいけない事ランキングに恐らく上位にランクインしているだろう言葉を、こやつはあっけらかんとした顔で言ったのだ。
許すまじ。あぁ、許すまじ。
引きつった笑顔を、無言のまま一豊に向けてやる。ありったけの怒りの感情を込めた、実に器用で珍妙な笑顔をしてやった。
「な、なんだよ気持ち悪い……」
鈍感な一豊もさすがに気味悪がって、ばつが悪そうにそそくさと学校に行った。
その背中を、穴が開くほど目一杯に睨んでやる。
一豊が言う通り、最近本当にちょっとだけ太ったから、余計に腹が立つ。
でも本当に、ちょっとだけだ。