腹ペコなんだ

boredoms2010-06-17

最近仕事がやたら忙しいので糖分が欲しくなって、突然、「お腹が空いたらスニッカーズ」という言葉を思い出したので、近くのコンビニに買いに行きました。
久しぶりに食べたスニッカーズはあまりに美味し過ぎて困った。
是非、脳みそが少し疲れ気味の時に食べてみてください、やたら美味しいですよ。



獣王伝 雷血
第十六話『雷血・継承』


 白虎いわく、人と人が殺し合う戦争が最も、その地の霊脈を荒らす原因になるのだそうだ。
 乱れた霊脈を、正常な流れへと調整する役目を担っていた霊長類、黄龍接触により絶大な力を得たルイチは、第一線で活躍していたのだと白虎は言う。
 俺なんかには到底想像ができないような、血でぬかるんだ道を幾年も歩いてきたルイチにとって、普通に過ごすこと、普通の人にしてみれば当たり前の事が、何よりも貴重なものであり、大事なものなのだ。
 俺の家に滞在していた一週間は、千年間の記憶に勝るほどに、ルイチにとっては価値のあるものだったのだろう。
 俺は、それが素直に嬉しかった。少しでもルイチの事を、救えたのだろうか。
「夢があるんだ。お嬢の笑った顔が見てみたい、それもとびっきり笑顔をね、それが私の夢なんだ。それがね、もう少しで叶いそうなんだ、あと少し、本当に、あと少しなんだと思うんだ、お前の父さん、豪ちゃんが吾妻の家に行くように言ってくれたからかな」
 そういえば、といえば薄情になるけれど、親父はどうなったんだろうか。ルイチは親父のことを、死んだわけではない、と言っていた。そのせいもあって、正直に言ってしまえばあまり気にはしていなかった。
 もうここまで言ってしまえば、立派な薄情者だ、自分でもそう思う。
 でもそれにはちゃんとした理由がある。何の目的があってかはさっぱりわからないけれど、親父はいつも旅に出ていた、その為、俺は親父と過ごした時間が極端に少なかった、たまに家に帰って来ては、飯をたらふく食べて、また出て行く、そんな人だった。
「多分、いや確実に、お嬢は豪ちゃんの事も話していないだろうから、説明しておこうね。おまえも知っての通り、豪ちゃんはいつも旅に出ていただろう? その旅に、お嬢も少しの間、一緒についていっていたんだ、お嬢は最初、ただの暇潰しだったんだけどね、旅をしている内に各地で霊脈の変化にお嬢は気付いたんだ、どうやらそれは天血の封印が弱まっている事を意味しているらしくてさ、それでお嬢は田護崎町に来たってわけさ、まぁ帰ってきたという方が正しいかな、田護崎町はお嬢の故郷だからね」
 ということは、ルイチと俺は同郷になるわけだ。
 そこで白虎はニ、三回ほど顔をかいてから、また説明を続けた。
「豪ちゃんも、ころもの飯が食いたくなったから俺も帰るって言ってさ、お嬢と一緒に田護崎町に向かっていたんだ、でもその途中、二人は干支者の襲撃を受けるんだ、しかも、干支者の中でもリーダー格である四人から同時にね、寅(とら)、卯(うさぎ)、辰(たつ)、酉(とり)、の四人だ、ありていに言えば四天王ってところだね。さすがのお嬢もそれには焦ったようでさ、開放モードになって豪ちゃんと二人で応戦したんだ、お子様モードで充電した力を全て使い切る頃、ようやく四天王を退けた、さすがの奴らも相当なダメージを負って退いていったけど、同じように豪ちゃんもダメージを受けていた、それがまたかなりの重傷でね、まさに虫の息ってやつさ、だからお嬢は決断した、豪ちゃんを玉に封じ込めたんだ、だから豪ちゃんは、今は差し詰めタマちゃんってわけさ、多・摩・川☆」
 白虎のウインクから、沢山の星が散らばった。
 多摩川で☆の意味が、さっぱりわからない!
 飛んできた星をやりすごして、冷ややかな視線を白虎に送る。
「そ、そんな目で見ないでよね……Mの血が騒ぐぐぐ……うげぇぇぇ」
 どうやら白虎はSMでいうところのMらしく、俺の冷たい視線に興奮したのか、感極まった挙句、こぶし大の毛玉を吐いた。
 興奮した表現が、絶対におかしい。 
「だ、だってさ、ずいぶんと真面目な話しが続いたんだから、一回ぐらいの茶目っ気は大目に見てほしいね」
 すねた風に口を尖らせながら、白虎は散々愚痴をこぼして、最後には「けちっ」と憎まれ口をたたいた。
 ガス抜きをして、というか毛玉を吐いて満足したのか、「話しを続けよう」と言って、咳払いを一度だけした。
「玉っていうのはね、お嬢が使える最上級の術なんだってさ、四聖の力を宿した継承者にしか真価を発揮できないらしいんだけどね。霊脈で造った玉、大きさはビー玉程度かな、その中に対象者を封じ込めるんだ、その玉の中では時間が逆行しているらしくてね、重傷を受ける前の体に戻すんだってさ、完全回復までにはかなりの時間がかかるらしいけどね、あと重要なのは、その術が持つリスクだ。対象者は、四聖の力を失う事になるんだ、だから、お前に順番が廻ってきたというわけさ」
 そういえば、ルイチがビー玉ぐらいの大きさの球体を持っている姿を、一度だけ見た事がある。その球体は、自ら淡い光を発していて、鮮やかな黄色がとても綺麗だった、しっかりと印象に残っている。
 と同時に、その時の状況を思い出して、少しだけ不安になった。家のリフォームに関する情報番組をみんなで見ている時だった、廊下などに球体のものを置いて、その転がり具合で家の傾きがわかるという内容だった、それを一緒に見ていたルイチが、「さっそく試してみよう」と立ち上がり、散々廊下でコロコロと煌めく黄色い球体を転がしていたのだが、その時の球体が、親父が入っている『玉』だと断定はできない、けれど、その可能性はかなり高いと推測する。
 いい加減が服を着て歩いているようなルイチのことだ、よもや無くしたりなんてしていないだろうか、そう思うとすごく不安な気持ちになった、でも多分、きっと、恐らく、大丈夫……だろう。
「玉に入る前に豪ちゃんが言ったんだ、『俺の家に行け、遠慮なんてするな、欲しけりゃくれてやるぜ、探してみろ、お前の全てをそこに置いてきた!』ってさ、とある海賊王の言葉パクってるし馬鹿丸出しなんだけどね、なんとなく意味はわかるから大目に見てあげようよ、結果的には、吾妻の家でお嬢は楽しそうだったから万事OKってことでさ、本当に豪ちゃんには感謝しないとね」
 感謝しているわりには、けっこう毒づいていたように思う。
 ところで、玉の説明あたりから気になっていたのだが、それまで何本も落ちてきていたビデオテープが、今は止んでいた。
 目玉を左右に振って確認してみても、やはり止んでいる、俺の思いに気付いたかのように、白虎も上を見上げて喉を鳴らした。
「さて……どうやら、お前への治癒も終わったみたいだね」
 どうやら白虎の言動から察するに、ビデオテープが止んだのは、ルイチの力の介入が離れたからだった、要は治癒術が完了した事を意味していたのだ。
「それじゃあ、そろそろおまえの意識を戻そうか、お嬢がお待ちかねだ」
 突然、どこまでも暗闇だった白虎の世界が、俺を中心にして、眩しいくらいの青白い光が放射線状にゆっくりと広がっていく。
 そして白虎の蒼い瞳が、まっすぐに俺を見据えて言う。
「お前の意識が戻る前にさ、お願いがあるんだ。次に目が覚めたら、お前は私の、白虎の力を宿している、そうしたら、私のこの世界と外の世界は完全に遮断される事になるんだ、例え何があろうと、もう意思の疎通は叶わないのさ、だからね、もう今しかないんだ、お前にお願いできるのは今しかないんだよ」
 継承者と話すのは初めてだ、そう白虎が語っていたのを思い出した、きっとその理由が、外の世界との遮断によるものだったのだろう。
 継承者に白虎の力を与えるという事は、ここにいる白虎はもう力の根源でしかなくなる、誰もいないこの世界でただ一人、力の供給の為だけに全てを費やすのだ。
「私はね、お嬢のことが大好きなんだ。昔、お嬢は私を笑わせてくれた、楽しかった。だから今度はお嬢の番だ、笑っていて欲しいんだ。お嬢を好きでいてくれる人達と、お嬢が好きな人達とで、たわいもない話しをしてさ、楽しそうにしていて欲しいんだ。さっきも言ったけれど、私の夢は、お嬢のとびっきりの笑顔を見る事だ、その夢を叶えて欲しい、それが私からのお願いだ。勝手な事ばかり言って悪いけどさ、お嬢のこと頼んだよ。じゃあね」
――これでまた、白虎はこの世界で一人になるのか。これからも毎日、一人なのか。
 俺は白虎にだって、誰かとたわいもない話しをして、楽しそうに笑っていて欲しいのに。
 それなのに。
 あとは頼んだよ、なんて。
 じゃあね、なんて。
 ルイチのことが、大好きなんだったら。
――そんな
「寂しい事、言うなよ」
「あ、最後の最後で喋った……」
 白虎は、キョトンとしていた。
「おまえだってルイチを千年間、ずっと想ってきたんだろう! 一緒に来い、頼むよ、来てくれよ!」
 やはり白虎はキョトンとしていた、でもすぐに嬉しそうな笑顔に変わった。
「私も、そうしてみたいな。でもね、それはできないよ、私の意思を外の世界に出したことなんて、今まで一度もないんだ、多分なんだけど、力のロスが発生することになる、要は今までの継承者よりも弱くなる可能性が高い、それは非常に不味い事だよ」
「そんなの嫌だ、一緒に行こう! 弱かろうが、なんとかするから! だから」
「お前の気持ちはすっごく嬉しい、だけどね、力の供給が不安定になって、白虎の力が弱体化したお前がネズミ男爵に殺されたら、お嬢はどうなるんだい? お嬢はたくさん泣くよ、誰もいない所でまた一人で泣くのさ、そうなったら、私はお前を許さない。それにさ、お前の帰りを待っている吾妻家の人達がいるだろう、最高の家族がさ、それにおまえだけじゃない、お嬢の帰りも待ってくれているんだ、だからさ、私にはそんな無謀な事はできない」
 反論の言葉が、浮かばなかった。
 千年間も白虎を勤めてきたこいつが、弱くなる可能性が高いと言うのだから、それは本当にそうなのだと思う。
 白虎の心を満たせるものがあるとすれば、それは外の世界と繋がることじゃなく、やはりそれは、ルイチの笑顔だけなのだろう。
「……わかった、でもさ、でも、おまえだって」
 一人じゃないんだ。
 そう言おうとした、でも、なんだか恥ずかしくて口ごもってしまった。
「ふふふ、わかってるさ。優しいんだね、雷血は」
 白虎に初めて『雷血』と呼ばれたことが、なんだか妙に嬉しかった。
 広がり続けた光は、やがて世界を埋めて、俺の意識もその光に解けるように薄らいでいった。



 目が覚めて、ほのかに花と芝生の匂いがした、横たわっている上半身を勢いよく起こしてみせる。
 服には、まだ乾ききっていない俺の血がべっとりと染みていたが、傷口はすっかり塞がっていた。
「むんむ! 一豊の奴、ようやく起きよったか」
「おぉ! 姫君様のおっしゃった通りですぞ!」
「な? 言った通りであろうに、どうじゃなわしの力は?」
「すごいですとも! あれだけの傷を短時間で治してしまう姫君様のお力、いやはや御見それしましたぞ」
 そう言って、ネズミ男爵はシルクハットを脱帽してルイチに一礼をした。
「そうであろう? そうであろうに! にょ、ほっほほほ!」
 これでもかというぐらいにルイチはふんぞり返って、ネズミ男爵の背中をバンバンと叩いている。
 なぜか、ネズミ男爵もいい笑顔だ。
 ルイチ、もうそのままネズミ男爵を倒せよ。そう思ったけれど、それでは主人公の俺の立場が危うくなるので、その考えは奥の方に引っ込めた。
 さらにルイチは何を勘違いしたのか、もらえるとでも思ったのだろう、ネズミ男爵が脱いだシルクハットをふんだくって、自分のモノの様にそれを被った。
 さすがのネズミ男爵もそれには戸惑い気味だったが、すぐにまたいい笑顔に戻った。
 次にルイチは、俺の様子を伺いながら、ゆっくりとこちらに歩いてきた。ネズミ男爵のシルクハットは、ルイチが被るには少しばかり大きかったようで、ズレ落ちそうになるのを手で支えながらの歩みだった。
「傷はどうじゃな、一豊や? なに礼はいらん、まぁまぁまぁどうしても礼がしたいと言うのなら、最近女子の間で流行っておるという『クマの子 べ〜やん』のワンピースが、千九百八十円でユニクロのチラシに載っておったから、それが欲しい。白とピンクの二色展開じゃからどっちの色も欲しいな、あとは、べ〜やんの靴下と、それから、」
「なぁ、ルイチ」
 なんとも現実的な欲望を、次々と吐き散らかすルイチを制止するように、俺はルイチに呼びかけた。
「お、喋りよった喋りよった、なんじゃ?」
「おまえは、お、おおお、俺が好きか?」
 恥ずかしさのあまり、もう一度、白虎の世界にルパン三世のごとくダイブを決め込みたかったけれど、そうもいかない。
 突然のぶっ飛んだ質問に、シルクハットがズレ落ちていた。
「……こ、こやつ、打ち所が悪かったのじゃろうか……」
「おまえは、母さんとジイさんが好きか?」
「何を急に言っておるのだ、今はそんなこと関係ないではないか」
「母さんも、ジイさんも、お、俺も、おまえが好きだ。おまえはどうだ?」
「すぴ!? わ、わしはママ殿も、仁成も、お、おおお、おまえもす……す、す……す、すすす、スポポビッチ
「俺のどこにMの文字が見えるんだよ! でもわかったよ、それで十分さ」
 ルイチも俺と同じで、素直じゃない。
「十分って、わしはまだ何も……まさか、一豊おまえ、猫姉に会ったのか?」
 少し考えて、猫姉(ねこねぇ)というのが、白虎のことなのだと理解した。
「会ったよ、あいつもおまえのことが、大好きなんだって」
「ゆぴ!? わ、わしも猫姉のことす、すす、すすす、スージーQ・ジョースター
「白虎がいつからジョセフの嫁になったんだよ!」
 それでもきっと、白虎は「わかってるさ」と笑っている、そう思った。