伝説はここにある…黒い風は吹いている!

boredoms2010-04-10

カスケードすごくいい!
まぁこんなん言ってますけど有馬記念戦しか知らないミーハーです。



獣王伝 雷血
第八話「修行 其の一」


 目が醒めた。
 枕元にある時計をたぐりよせて時間をぼんやり確認すると、朝の六時前だった。
 今日は休日の土曜日なので、起きるにはまだ全然早い。
 言い難い優越感に浸りながら、もう一度目を閉じる。
 その時だった。
 静かに襖を開ける音がして、誰かが俺の部屋に入ってきた。
 俺は、身体を緊張させた。
 侵入者は、まるで俺に気付かれてはまずいかのようになるべく静かに侵入し、忍び足でこちらに近づいて来ているからだ。
 もしかすると、ねずみ男爵が闇討ちに来たのかも知れない、でもあんなに紳士的な奴がこんな事をするのだろうか、いや紳士的な姿勢はこの為の布石だったのだろうか。
 俺は目を閉じ、神経を集中させる。
 侵入者は俺の顔の真横にまで来た、けれども侵入者からは殺気というものが一切感じられなかった、俺は薄目を開けてみた。
 すると、緊張は緩和に変わった。
 ニヤニヤしながら俺の顔を覗きこみ、右手にマジックを持ったルイチがいた。おまけに、そのマジックは油性だ。
「何やってるんだよお前」
「!?」
 俺が起きていた事に驚いたルイチは、後ろに勢いよくひっくり返った。
「お、き、お、起きておったのか」
「答えてくれルイチ、その手に持ってる油性のマジックで何をするつもりだったんだ?」
「へ!? な、何も持っておらんよ?」
 手を後ろに回し、わざとらしく口笛を吹き始めた。
 といっても、その口笛は一切吹けておらずフーフーという音だけが漏れている。
「いいから、その後ろに隠したものを見せなさい」
「……ちっ」
「舌打ちですか!?」
「ふんっ、こちらが下手に出ておれば付け上がりよってからに、まぁよいわ、とりあえず早々に着替えよ」
「着替えって、こんな早くにどこに行くんだよ?」
「決まっておろうが、修行じゃよ、お主をこの一週間の間で白虎の力に目覚めさせる為の修行じゃ」
 ねずみ男爵と戦うには今のままでは勝ち目は限りなく薄い、どうにかして白虎の力に目覚める方法はないか、そう思っていた俺にとっては無下にはできない申し出だった。
 ただ、その相談はじいさんにしようと思っていた、白虎の力を持っていたじいさんならば必ず何か知っているはずだ。
「その気持ちはありがたいが、とりあえず白虎の件に関してはじいさんに相談してみてからでもいいかな?」
「うむ、かまわんぞ」
 丁度今頃の時間帯ならば、じいさんはラジオ体操に行く為にすでに起きているはずだ。
 上下セットのジャージに着替えてから部屋を出て、洗面所に向かった。
 すると、じいさんが洗面台で顔を洗っている、ただ少し様子がおかしい、いつもは二、三回で終わる洗顔が今日はかなりしつこい。
「おはようじいさん、今日は何回も顔なんか洗ってどうしたんだ? デートか?」
「一豊よ、聞いてくれ、私は病気にかかってしまったようだ……しかもかなりの奇病だ」
 そう言って振り返ったじいさんの顔を見て、俺はギョとした。
 じいさんの顔は、真っ黒だった。
 不自然なほどに黒く、それはまるでマジックで塗り……。
 そこまで考えて、俺の中でなにかが繋がった、コナン君の気分だ。
 ルイチの方に視線を移す、肩を小刻みに震えさせて必死で笑いをこらえているルイチがそこにいた。
 小五郎おじちゃん! 犯人こいつです!
 塗りつぶしてやがる! 落書きってレベルじゃねえ!
 俺の部屋に来る前に、すでにじいさんは餌食になっていたのだ。
 あの時偶然に起きていなかったら、俺も今頃はこうなっていたのかと思うと背筋に寒い感覚が走った。
「……んぶぷっ、それはぶふっ大変じゃな仁ぷふっ」
「と、とりあえずそのまま聞いてくれ、白虎の力を覚醒させる為にはなにか方法はあるのかな? あと、その修行をルイチが考えてくれているらしいんだけど、どう思う?」
「なんと!? ルイチ殿直々に修行を受けるとは、光栄な事だぞ一豊、今日から私も白虎覚醒の伝授を施そうと思っておったが、ルイチ殿がそう言ってくれておるならお任せしようか、ルイチ殿、あなたほどのお人が本当によろしいのですかな?」
「かまわんよ、わしに考えがあるんじゃ」
「さすがはルイチ殿! それでは一豊のこと、よろしくお願い致します」


 ルイチが河川敷に行こうと言うので、ルイチと二人で向かうことにした。
 ルイチは道中、家から勝手に持ってきたポテチを食べながらの移動だった、ポテチはルイチがほとんど一人で食べて、俺がもらったのは二枚だけだった、俺のおやつなんだぜそれ。
「着いた着いた、それでは……うん、あの木がいいかの」
 そう言うと、近くにあった木をおもむろに蹴りだした。
「どうしたんだ急に? ストレスか? 生きていくのがつらいのか?」
「違うわ! 葉っぱが落ちてきておるだろう?」
「あぁ、落ちてきてるな」
「さぁ構えい!」
 よくわからないが構えてみる。
「この落ちてくる葉っぱを掴み取るんじゃ! 十枚じゃ!」
「え!? 待ってルイチ! 見たことあるこれ! 俺は別に強いってなんだろうとか思ってなんですけど!?」
「早くせんか! 強くなりたいのであろう!? 早ようせんか小僧!」
「鴨川!? 小僧って言ったよね今!?」
 ただ、ルイチの目は真剣そのものだった。
 これにはきっと深い意味があるのだろうと解釈し、観念して葉っぱを掴むことにした。
 集中すると、意外に早く十枚というノルマを掴み取る事ができた、蒼天流師範代の看板を背負っている以上、これぐらいの事は難しいことではなかった。
「ほぉ、やるではないか一豊、それでは次はあれじゃ」
 と、指で示す方向に目をやると大きな丸太が河川敷の土手から突き出ていた。
 すごく悪い予感がする。
「あの丸太を殴って土手に打ち付けるんじゃ! いけ猫田!」
「鴨川!? 俺の敵はアメリカじゃない!」
 その後、必死の説得でなんとか丸太を素手で殴って打ち付けるという危険な修行は回避できた。
「まったく根性のない奴じゃな、じゃあ今日は次で最後じゃ」
 ルイチは足元に落ちていたこぶし大の石を拾い上げた。
「お主に必殺技を教えよう、こんな石ぐらい粉々じゃて」
「それはすごいじゃないか、白虎の力はすごいんだな」
「いや、これは白虎の力とはまったく関係ないがな、きっと役に立つはずじゃ、ではよく見ておれ」
「あぁ見ておくよ」
「こうやって」
 石に拳を立てて一撃目、コツッと音が鳴る。
「えい!」
 拳を折って二撃目、ペチッと音が鳴る。
「むぅ? おかしい……あれぐらいならわしにもできると思ったんじゃが、ほれお主もやってみ」
「無理です相楽隊長! 体のごっついお坊さんを連れて来てくれない限りできません!」
 その後も何回かやらされたが、二重の極みは完成しなかった、当たり前だよ!
 そうこうしている内に、ルイチが「お腹すいたから帰る」とごねだしたので修行は一旦休止にすることにした、一体この小一時間はなんだったのだろうか。
 明日もその次の日もこんなことが続くのだろうか、やっぱりじいさんに頼んだ方がよかったのだろうか。
 ルイチが言うには、明日からは修行内容が本格的になるとのことだ。
 不安な日々は、なおも続く。