ルイチの画像がハマりすぎ2(pixivより塩芋様の絵を勝手に採用)
獣王伝 雷血
第七話「説明 其の二」
「と、まぁあんまり脅かしてやるのも可哀想じゃ、この辺にしておいてやろう、なにせまだ毛も生え揃えておらんようなお子ちゃまじゃからのぉ」
ルイチはそう言うや否や、再び母さんの膝枕に頭を預けた。
お子ちゃまに関しては、千年も生きているというのに、こんな幼稚なルイチに言われたくない。
それに余談ではあるが、毛は中学校一年の時に生え揃えている。
「それでは次に、お主の父上の事を話そうか、わしはお主がこの部屋に入ってきた時『父上は見事な最後であった』と言うた。しかしな、あれはちと言いすぎたと思うておるのだ、というのも別に死んだわけではないからじゃ」
「そう、なのか?」
薄情なのかも知れないが、俺はてっきり親父は死んだものかと思っていた、あの時のルイチの言い草ならそう思うのも無理はない。
ただ、じいさんも母さんも親父が死んだというのにあまり悲しんでいない理由がこれで納得できた、とはいえ母さんは俺が帰る前にある程度は泣いていたのだろうと察していた。
母さんの顔を見てすぐに思った、いつもより母さんの目が少しだけ赤かったからだ。
「お主は、田護崎神社の封印の事は知っておるな?」
「あぁ、じいさんに子供の頃から聞かされてるよ」
田護崎神社とは、田護崎町のほぼ中心に位置する所に建てられている神社のことで、そこには「あるもの」が封印されているという言い伝えがあった。
実は四聖には干支者の監視・討伐の他に、その封印を守るとう重要な役目があった。
しかし、時代と共にその役目はあまり重要視されなくなっていき、事実じいさんは封印に関しては何も特別な事はしてこなかった、じいさんと同世代の元四聖も同じく何もしていない。
ようやく最近になって月に一回は神社の掃除をしたり、夏にはお祭りを四聖OBメンバーで企画するなど、封印監視という大義名分を掲げて遅い青春を大いに楽しんでいるだけだった、それでも封印は一切解けることはなかった。
「その田護崎神社の封印が、最近になって弱まってきておるという事に気が付いたのじゃ」
「気付いたって? なんでおまえにそんな事がわかるんだ? ひょっとしておまえも四聖の一人なのか?」
「いいや、わしは四聖ではない、わしは霊長類じゃ」
「え……いや、俺も霊長類だと思うのだけれど」
「確かに今の時代ではヒトは霊長類といわれておる、しかし霊長類とは本来わしら一族のことを指しておるのだ、この世界の地表には霊脈という膨大な力が流れておる、その霊脈と対話ができる唯一の存在、決まった家を持たず流転の旅を繰り返し、戦争や飢餓で乱れ、衰弱し、枯渇した地域の霊脈を正常なものに調整する、言わば世界の調整者、その数少ない生き残りがこのわしじゃ」
これまたすぐには信じられない話しだが、でかいネズミもいるこの世界だ、なにがあっても不思議ではない。
「まぁとりあえず信じようじゃないか、じゃあお前が今もこうやって生きていられるのは、特殊な一族の体質なのか?」
「すぴー、すぴー、すぴー」
「寝てる!? ちょっとややこしい話したら寝ちゃったよこの子! お腹がいっぱいになって寝るって、本当に子供じゃないか」
さっきまで威張り散らしていた生意気な顔が、今は本当に子供の寝顔をしていた、そのあどけない寝顔を少しでも可愛いと思ってしまった事がちょっと悔しかった。
「あらあら、こんなところで寝たら風邪をひくわよ」
そう言うと母さんは、膝枕に埋もれているルイチの頭を優しく支え、そのまま抱き上げ部屋を出て行った、ルイチを布団に連れていったのだろう。
「なぁじいさんよ? なんなんだよあいつ……」
疑問の視線をじいさんに送った。
すると、じいさんも正座をしながら寝ていたのでガッカリと同時にビックリした、緊張感という言葉がこの人たちには存在していないのだろうか。
聞きたい事がいっぱいある。
親父はどうなってしまったのか。
ねずみ男爵が俺を殺そうとしている真意。
なぜルイチは千年も生きていられるのか、だいたいなんでこの家に来たのか、親父の事を喋りに来ただけなのだろうか。
疑問は絶えない、俺が理解できた事の方が遥かに少なかったからだ。
だが、肝心のルイチは寝てしまい、じいさんまでもが眠りに入ってしまった今、どうする事もできない。
でも、丁度よかったのかもしれないとも思う、今日一日で色々な事があって正直言うと疲れた。
正座のまま眠ってしまったじいさんを、横に転がして布団をかけてやり、ちゃぶ台に出ている食器を片付け、それから風呂に入った。
母さんはルイチを布団に連れて行ったきり戻ってこない、多分、いや確実に、そのまま一緒に寝てしまったのだろう。
布団に入り今日の出来事を整理しよう、明日は学校が休みの土曜日だ、いくら寝るのが遅くなっても問題はない。
だいたい今日みたいな日に眠れるはずがない、そう思っていた。
でもその予想に反して、よほど疲れていたのか、はたまた俺がのん気なのか、眠気はすぐにやってきた。
不思議な夢を見た。
どこまでも真っ暗な空間に、俺と一匹の虎が向き合っている。
虎の毛並みは一点の曇りもない、真っ白な色をしていた。
虎は鈍い光を発している、どこか懐かしい温かい光だった。
その虎が、俺に問いかける。
「準備はできたか?」
夢の中の俺はただ黙っている、何か言おうとするが言葉が出てこない、それどころか手足もまったく動かない。
「どうやらまだの様だな、私には待つことしかできない、待っているよずっとおまえを」
そう言うと、虎はその姿を光に変えて、その場から消えてしまった。
そんな、不思議な夢を見た。
つづく