出ていきなさい

boredoms2010-03-01

昨日、シャワーを浴びにお風呂場に入ったら、ダンゴ虫がいました。
どこから入ったのかまったく謎、恐怖。
なんて立派な王蟲…って言いながら窓から逃がしてやりました、森へお帰り蟲野郎。
あぁ、ほんまに怖かった。


獣王伝 雷血
第三話「子の刻」


「貴殿よ、聞こえていないのですか?」
 はっとした、やっと現実に追いついた。
 ネズミは教室の戸を開け、ひょっこり半身だけ入ってきて何度もこちらに話しかけていたようだ、ネズミは俺の方を見てずいぶんと不思議そうな顔をしていた、ように感じる。
 なにぶんネズミの「不思議がる顔」などというものを知らないので、状況的に人間の場合に置き換えたならば、不思議がるだろうと想像したまでにすぎないが、だいたいは合っているはずだ。
 あと、確かにあのネズミは「俺にも明確に通じる言葉」で話していたが、今の俺にはそれに対してびっくりする許容は余っていなかった、もぉすでに十二分にびっくりしていた。
 これは夢ではない事はわかっている、それでもほっぺたをつねりたい衝動に駆られた。しかし、体が硬直していて、鞄を握りしめた指がまったく動いてくれなかった。
 うすらでかいネズミが人語を喋る。そんな事は漫画やアニメではよくある事だ、そうやって必死に恐怖心を誤魔化した。
「はっはっ、やっと声が届きましたかな? まぁ当然の反応でしょうな、あなた方人間にとって、私のようなものは化け物の部類になるのでしょう? 失神しないだけ立派というものだ、このお連れしたお嬢様なんてものは、私を見た途端に失神してしまわれましてな、何度声をかけてもお目覚めにならんのですよ、よほどショックだったのでしょうな」
 そりゃそうだ、2メートルはあるネズミを見て平気でいられる方がどうかしている。
 俺も例外に漏れず、今にも剥がれ落ちそうな意識を必死で捕まえている。
「このお嬢様に出会ったのはついさっきの事でして、場所は自宅の庭先です、私は花に水をやっておったところなのですがね、いやなにせ私を見て失神したわけですから責任を感じましたよ、このままにしておくわけにもいかず、失礼とは思いましたがお嬢様のお持ちになっていた鞄を調べさせて頂きました、すると生徒手帳を見つけましてな、まぁ本当はお家までお連れしたかったのですが結局住所が分かるものがなかったのです、それで仕方なく学校にお連れした次第にございます」
 だんだんと話しを聞いている内に、このネズミは異様にでかいだけで、決して悪い奴ではないのではないか、そう思えてきた。
 なんとも心地よい低音ボイスで、極めて丁寧な言葉遣い、頭には小さなシルクハットを被り、手にはステッキを持っていた。
 これは一度話しかけてみてもいいかもしれない。心を決めて、勇気と声を振り絞ってみた。
「えっと、ということはネズミさん? 高砂さんは誰かに誘拐されたわけではなく、この3日間、外をほっつき歩いていたということですか?」
「そこまではわかりませんが、私が推測するに、どうやらこのお嬢様は家出の最中だったようですな、少しの着替えと高校生にしては十分すぎるお金もお持ちでしたし、一応ことわっておきますが、何も盗ってなどおりませんよ」
 俺は、ありったけの力で頷いてみせた。
「私に出会って失神なさった、お嬢様には悪いことをしたが結果的にはこうなった方が、お嬢様にも親御様にもよかったのではないでしょうか、どうやら親御様と喧嘩でもしたのでしょう、目を覚ましたらあったかいご飯を食べて、それからゆっくりと話し合えばいい、大丈夫さ、親子ですから」
 いい奴じゃないか、このネズミさん。
 本当に、ただ単純に高砂雪江をわざわざ学校まで連れてきてくれたのだ、このネズミさんは刑事ドラマでいうところの『白』ってことでいいらしい。
「おっと、私は失礼な事をしてしまっているね、自己紹介がまだだった、いやいや申し訳ない、では改めて、私の名前はネズミ男爵、貴殿を殺しに参りました」
 『黒』だ、このネズミ。


つづく?