POST BOY
獣王伝 雷血
第二話「吾妻 一豊」
まさか自分の通っている学校から、ニュースになるほどの事件が起こるなんて思ってもみなかった。今でも、学校は相当にバタバタしている。
横山明海も唯一の後輩の失踪に、ショックで寝込んでいるそうで、それでこの録音での放送となっているようだ。
当初は、身代金目的の誘拐かと言われていたのだが、高砂雪江の家はお金持ちというわけでもなく、ごくごく普通の中流家庭の育ちだそうだ、3日目の今日も身代金の要求は出ていない。
帰宅部のはずの俺が、こんな時間まで学校にいる理由も、今回の失踪事件のせいだった。
高砂雪江と最後に会話をしていた人物の名前は、「吾妻一豊」。
他でもない、吾妻一豊は俺の名前で、高砂雪江と最後に会話をしたとされる人物だ。
しかしながら、会話というほどでもなく、ただ単に、下校途中に偶然会ったのでクラスメイトとしての最低限の礼儀として、さようならの挨拶を交わしただけにすぎなかったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
ここ3日間というもの、警察から、先生から、度重なる事情聴取が行われた事は言うまでもなく、慣れない事の連続でずいぶんと疲れが出ていた。
そんな3日前から行方不明のはずの高砂雪江を、軽々と左肩に担ぎ上げ、二足歩行のでっかいネズミの化け物が、律儀にもきちんと戸を開けて教室に入ってきたのは、今から約20秒前の出来事だ。
聞きたい事が一つある、疲れが酷い時というのは、幻覚を見るものだろうか。
見える。どうか今だけはそういう事にしてもらえないだろうか、眼前に広がる奇異な光景を見ながら、そんな事を考えていた。
でも、一つだけわかった事がある。
どうやらアニメの録画は、間に合いそうにない。
つづく?